えっちゃんの中国美大日記 第11回「中国美術界の仕掛け人たち 第二弾:王璜生さん」WEB連載えっちゃんの中国レポート2014年04月11日share facebookshare xshare pinterestshare lineshare hatebu 図1 中央美術学院美術館のカフェにて、王璜生館長 中国美術界にて活躍している人、注目の人を紹介する「中国美術界の仕掛け人」第二弾では、私の通っている中央美術学院の美術館の館長である王璜生さんです。王さんは水墨画も描き、中国画(日本で言う水墨画のこと)理論の研究もし、中央美術学院で人文科の教授でもあります。 今回は中央美術学院美術館(Central Academy of Fine Arts略してCAFAM)の特徴、前回の日記でも記載したCAFAMビエンナーレ「無形の手」に関してインタビューをします。 CAFAMビエンナーレによる問題提起と若手のパワー 江上:今展示されているCAFAMビエンナーレでは6つのテーマが決められていて、それぞれのキュレーターたちがアーティストを選んでいますね。 王璜生:はい、基本的には問題を討論する場です。おもしろいことは、中央美術学院にはキュレーターという専門があるので、国際的な活躍をしている機関に、キュレーターの専門のよいところから若い方を呼びました。今回は討論しているテーマも独創的、討論している人も独創的です。今、中国のキュレーターの分野はとても混乱している状態で、この展示を通してそキュレーターの方向をも提起しています。 江上:2年前の第一回CAFAMビエンナーレはテーマが「超有機」ですが、今回は前回と比べてなにかおおきな方針の変化はありますか? 王璜生:基本的にはまずビエンナーレから見て、大きな方向は変わっていません。毎度ビエンナーレを通して問題を投げかけ、この問題というのは今現在起こっている敏感な問題であり、本質的な問題です。「超有機」では人間の欲望、欲望の拡散による問題を提案し、現実名社会の問題性、この歴史の一段の「問題」に対して学術的な研究の態度で展覧会を企画しています。手段は変わることがあってもこの方向は変わることがないでしょう。 江上: そうですね、中央美術学院美術館は大学の美術館であるがためなのか、展示内容がとても学術的に感じます。それに対して、またCAFAMアートナイトというお祭りのような楽しめるイベントもありますね。 王璜生:私たちも大学の美術館で学術的には強くなくてはいけないし、それを私たちでは「生産」と呼んでいます。好いものを「生産」をして、そのときに社会の多くのことを知ることができる。 江上:ええ、CAFAMビエンナーレ、CAFAM未来展でも「生産」されている気がします(笑)今回でCAFAMビエンナーレは2度目ですが、当初はどういう考えがあって、このイベントを始めようとしたのですか? CAFAM:若手のサポートと美術史の研究 王璜生:もともと中央美術学院美術館はあまりにも学園的な雰囲気が強く、学生の展示が多いものでした。ビエンナーレという言い方自体、国際的な言い方なので、私たちは、ビエンナーレというグローバルの交流の方法を用いて、学校の殻を破って、国際的な土台を作っていきたいと思いました。 そもそもこの美術館では若手作家の展示が多いのですが、未来展では、学校を通して全国の国内のアーティストを見る、または国際的な機関である美術館として、中国の若手アーティストを見る。中国の注目してもらう手段として、海外のキュレーターに提名という形で知ってもらう。 江上:それはとても意義のあることですね。特に若手作家にとってはこのようなサポート、発表する場があるのはとても大事なことです。王さんは今後どのような展示をしていきたいですか? 王璜生:2015年の1月に2回目のCAFAM未来展がりますね。一方面で現代アートを紹介するような、今展示しているCAFAMビエンナーレ。その一方で私たちは多くの時間をかけて、美術史研究の展示もしています。例えば、昨年「北平芸専」の展示をしました。これはとても重要なプロジェクトで、北平芸専は中央美術学院の前身で、それに関する資料、研究がとても少ないのが事実です。当時の美術史に関する研究、それぞれの当時の作家に関する研究、中国の近現代美術史の中で定義していくのは義務に思われます。 CAFAMの特徴:青年時代の研究 江上:なるほど、今の美術館が多い時代において、どんどん美術館の個性化、専門化の傾向があるように私は感じますが、中央美術学院美術館はどのようなキーワードがあるのでしょうか。 王璜生:この美術館の収蔵品には学生の作品が多いのですが、50年代の今では巨匠となった作家の若いころの作品がおおくあります。これを「青年時代の研究」と呼んでいます。でもそれらの巨匠も年をとったので、若い力が必要です。なのでCAFAMビエンナーレもつながってくると思います。 江上:この「青年」はどのぐらいの年齢を指しているのでしょうか? 王璜生:25-37歳です。そして大体卒業展の収蔵には年50-60件の作品を選びます。他の青年芸術家のサポート機関と違うところは、美術館という非営利的な機関で、長期的な姿勢で作品を選び、作家をサポートしていることです。 現代アート:脱西洋の文化価値観と多元化 江上:なるほど、これからの中国の現代アートはどのような方向に向かっていると言えるでしょうか。 王璜生:大きく分けて2つになっていると思います。まず、一つ目として、西洋の影響からどのように抜け出すということ。これは西洋の強大な文化価値の影響の中で、いかに中国の価値観を発見するのかが重要に思われます。表現方法、表面だけではなく、精神的な影響もありますね。もうひとつは、中国の本質的なものから見ての多元化です。個性的な表現の豊富、芸術家個人の強大化といえます。中国の美術は伝統が根強いので、そこを乗り越えての表現できればよいのでは。 江上:では中国で現在起こっている新水墨運動がありますが、それは西洋文化からの脱離といえるでしょうか。 王璜生:新水墨の概念はとても大きく、それを起こすのに、とても複雑なものがものが絡んでいます。新しい表現方法、個性もありつつ、価値のある作品を期待しています。 江上:価値の多元化している時代の中で、王さんのいう価値とはなんですか。 王璜生:価値の多元化はこの時代の象徴ともいえます。みんなのいう価値の中で共同で感銘できるもの、多くの反応があるような、共同の価値の基準をもとに、それぞれが自分の価値を定めている。芸術家のすべての精神状態がこの時代と呼応していて、作品となっているのではないでしょうか。 図2 王璜生館長と記者 図3 中央美術学院美術館 江上 越(Egami Etsu) 1994年千葉市生まれ。千葉県立千葉高校卒業後、2012年中国最難関の美術大学・中央美術学院の造型学院に入学。制作と研究の日々のかたわら、北京のアートスポットを散策する。ここでは北京のアート事情、美大での生活などをレポートしてもらう。« えっちゃんの中国美大日記 第10回「悦美術館でのオープニングパーティー ―広がる学生派閥―」月刊美術2014年5月号 人類史上、最高のガラス・アート ガレを集める。 »