2016年10月16日から11月6日にかけてオープンした今回の個展のアートディレクターには日本から美術評論家の千葉成夫氏と中央美術学院教授の曹慶暉先生を招きました。前回の記事のde Sarthe galleryと一見違うように見えますが、同じ脈絡で、コミュニケーションの可能性、ミスヒアリングゲームに関するものです。会期期間において両方の展示が見れるので、2つの空間が非常に面白い呼応関係になりました。
展覧会《誤聴×真相》江上越個展のポスター
《誤聴×真相》展示会場 手前はドキュメント
《誤聴×真相》展示会場-2
《誤聴×真相》展示会場-3 オープニングには多くの方が来てくださいました。
《誤聴×真相》展示会場-4
江上越の試み -顔が伝えるもの 千葉成夫
日本人美術家の江上越は「漢字」の発音が日本と中国とでは全く異なる意味になることに衝撃を受けて、美術家として出発したといっていいかもしれない。同じ漢字文化圏でも発音の違いが意味の違い、そして意思疎通の齟齬を生む。これは芸術の主題としては珍しいものではないが、江上越の試みが興味深いのは、この主題を一方で「誤解を生むゲーム」のかたちで作品化し、他方では人の顔を描く絵画を制作することで探求している点だ。つまり主題に対して、耳に入る「音」と眼に映ずる人の顔によって迫ろうと試みている。
ここで展示される作品は主に後者である。一見して、たんに顔のヴァリエーションを描いているのでもなければ、西洋のフォーヴィズムや表現主義由来の「デフォルメ」をやっているのでもないことが解る。どの顔も実物をデフォルメないし誇張していることは間違いないが、それは普通の意味での美的表現のためではない。
江上越の絵画は、いわば人の顔を写真に撮った場合と、自分がその顔から感じているものとの間の差異、誤差を計るためである。注意してほしいが、本物そっくりに描く代りに自分が感じているものをそのまま描いている、というのとはまったく違う。彼女が試みているのは両者の間の「差異」を描くことにほかならないからである。
人は顔にすべてが現れる、それは隠しようがない。それをふつうに現実再現的に描けば、「人となり」もそれなりに表現される。だが、それだけではもはや絵画とは言い難い。いま人の顔を絵画で描くなら、それとは違うことが求められる。これが彼女が選んだ方向である。彼女は、眼に見え、感じている顔にとどまらず、視覚と感覚のもっと奥にまで筆を進めようとする。こうして歪んだ顔、横を向いた顔、時には後ろ姿の顔(?!)まで描かれる。
友人を前にしてその顔を見る。顔は一人一人異なるから、よほど瓜二つでなければ、見間違えることはない。僕は彼とよく話もするから、彼のことが解っていると思っている。しかし僕の知らない時と所での彼の顔を、僕は知らない。
江上越の筆はいわばそういう「奥」まで描き出そうとしている。「ミス・コミュニケーション」を主題とすることは、「行き違い」を取上げて、それを表現するだけにとどまる筈がないのである。
《誤聴×真相》展示会場-5 作品《火口》の前で見る観客
《誤聴×真相》展示会場-6
展覧会《誤聴×真相》江上越個展
会期:2016.10.16-11.5
アートディレクター:千葉成夫、曹慶暉
キュレーター:陶巍
会場:Horizon Art Space (798芸術区内)
中央美術学院油絵科副主任の劉商英先生と江上越
中央美術学院油絵科の喻红先生と江上越
南京ビエンナーレのディレクター 黄柄良
会場にて 右は林風眠美術館の館長 遥远东方 と江上越
オープニングの様子1
オープニングの様子2