美術新人賞デビュー2020 審査総評&全入選作26作家 一挙紹介!
立島 惠 インタビュー
再挑戦で堂々受賞!
グランプリは吉澤光子さん《繁々》
───〈美術新人賞デビュー〉も今年で開催8回を数えました。
今回は、立島惠(佐藤美術館学芸部長)、諏訪敦(画家)、奥村美佳(日本画家)、瀧下和之(画家)の4氏が審査にあたりましたが、ようやく若手作家の登竜門として認知されてきたように感じます。
立島 浸透しているのは私も感じます。デビュー展出身の作家が他のコンクールで受賞していたり、展覧会に参加しているのをよく観ます。それは嬉しいことですね。
───個展やグループ展の案内も続々と編集部に届きます。そういう姿は嬉しいですね。デビュー展をキッカケに発表の機会がより広がることを願っています。それでは、今回のデビュー展を振り返ってみたいと思います。総応募数は167名でした。立島先生と事務局で行った書類による1次審査を通過したのが92名。そして審査員4氏で行った実作品による2次審査を経て、26名が入選となりました。まずはグランプリを受賞した吉澤光子さんからみていきましょう。
立島 前回の入選作家ですよね。覚えています。
───入選したことがある作家が再挑戦でグランプリを受賞したのは初めてのことです。吉澤さんは、1989年生まれ、東京藝術大学大学院を修了。院展を軸に発表を重ね、現在は同展院友です。
立島 前回の入選作品は、平面的な感じがしたけれど、このグランプリ作品《繁々》は、画面全体満遍なく描かれているにもかかわらず奥行き感がしっかりあって、抑揚がある。立体感や空気感のようなものも表現されていて、いいですね。
───密集した草木の表現が吉澤作品の特徴といえそうです。
立島 前回グランプリの野中美里さんとは対照的ですね。同じ風景画だけれど、野中さんはのびのびと自由な表現でした。でも吉澤さんは、ある程度日本画の型というか、ルールに則っていて端正ではあるけれど、現代的なエッセンスも感じる。違うテイストのものがグランプリとなったことは良いですね。異論もなく、満場一致でした。もしかしたらグランプリ狙いで挑んだのかな? だとしたら大したものです。デビュー展の趣旨にも相応しいし、見事なグランプリ作品だと思います。
対照的な準グランプリ2点
───続いて、準グランプリの2名。まずは、塗師瑛さん《また雨か。》はいかがでしょう。一見ちぎり絵のようですね。塗師さんは93年生まれ、武蔵野美術大学卒業、卒業制作は優秀作品に選ばれたそうです。
立島 雨の部分はキャンバスの地の部分、色を抜いているんですね。テイストはとても面白いと思います。グランプリと比較したとき、同じ風景なんだけど、対照的に街の風景で親近感があるし日常性の中にちょっと新しい雨の表現。雨にまつわる空間表現に独自性があって面白いですね。
───タイトルの《また雨か。》という情感が作品にそのまま出ていて、脱力感というか、諦念みたいなものを感じました。さて、続いてもう1人の準グランプリ吉原拓弥さん《帳が下りる頃》。
立島 吉原さんは92年生まれなんですね。なんていうか、絵が老成している。すごく落ち着いて、しっかり描けているし、伝統的な花鳥画の表現で至極真っ当な絵だと思います。
───吉原さんは京都造形芸術大学大学院修了。現在、院展の院友です。様々なコンクールで受賞と入選を重ねている実力派。丁寧な筆運びに好感が持てます。
立島 来年の受賞記念の個展が楽しみですね。1年の準備期間を大切に、制作に取り組んでほしい。
奨励賞には多様な3点
───それでは、奨励賞の3名に移りたいと思います。まずは、給田麻那美さん《まどろみ》。
立島 惜しかったというか、もう少し上に行けた作品だと思う。市場性もありそうだし、時流に乗りやすい絵だと思う。ユニークで独自性もある。
───審査会場でも印象に残った作品でした。どうすれば上の賞に届いたでしょうか。
立島 細かすぎるのかな。すごく近づいてじっくり見ないと何が描いてあるのかわからない。文様の所とかもう少しはっきりと描いても良かったのかもしれない。全体的には、とても繊細でディテールが魅せてくれる。でも、やっぱりよくよく見ないとわからないところが残念。上の賞とは本当に僅かな差だったと思います。
───続いて津田文香さん《ウミベノエキ》。審査員の皆さんは最初から結構気にしていた作品でしたね。
立島 ノスタルジックなモチーフで、やや芝居がかってはいるんだけれど、気になる感じ。絵肌もしっかりしていたし、画力もある。でもサイズがちょっと小さかったのが残念だった。
───でも、こういう描き方だとこのサイズがちょうど良かった、という気がしなくもないですね……。
立島 なるほど、そうかも知れないですね。大きくしてしまったら間延びしてしまったかも。津田さんは以前から知っていて、元々は、夜の風景を描く作家さんなんです。でも随分と描き方を変えてきたなという印象。あとになって気がついたくらいです。
───最後は三輪瑛士さん《No.19101》です。ユニークな作品ですよね。
立島 半具象というか、抽象まではいかないけれど具象とも言えない。全体的なバランスが良かったのかな。動きが不思議。楽器を弾いているような、子どもを抱いているようにも見える。現代的なものと古典的なもの。キュビズムや、印象派のセザンヌみたいな。いろいろな要素がミックスされている作品。
───作品タイトルにはどんな意味が込められているのでしょうか。本人にいろいろ伺いたい作品ですね。受賞6作家は以上です。入選作家に移ります。
入選作から見る今回の動向
───伊熊義和さん《sunrise》から始めていきましょう。
立島 長崎大学卒業ですか。デビュー展は所謂、美大系ではない人が必ず入ってくるからいいですね。
───変に奇をてらったりしてしない実直な静物画ですね。
立島 そうですね。でも、モチーフがずらりと一列に並んでいるのが面白い。構成が平面的で奥行きは感じられないけれど、逆にモチーフ自体が際立って見える。
───続いて、植野綾さん《case》です。
立島 何だろう? と思わせる作品ですよね。画題だけでも考えさせられるというか。標本的な陳列みたいな意味なのかな?
───穏やかじゃない雰囲気も感じますよね。
立島 そうですね。色々深読みすればいくらでもできる。作品の表情というか、表現したいという思いがしっかり伝わる作品だと思います。
───岡部仁美さん《胎》はいかがでしょう。おどろおどろしい背景と人物の構成です。
立島 もっと気持ち悪くてもいいかなとも思います。ヌメッとした感触とか、こういう表現をやるのなら、もっと思い切って描いてしまって良いと思う。全体的には丁寧な仕事で、細かいところもよく描けていると思います。
───葛西明子さん《速さについて》は、打って変わってポップな風景画です。
立島 この作品はよく印象に残っています。
───サイズは小さいですが、審査会場でも目を引いた作品でした。審査員の皆さんも絵の前で立ち止まって、じっくりと見ていましたね。
立島 光の表現が面白いですよね。画力はちゃんとしているし、何よりセンスを感じる。これから伸びる作家だと思います。
───菊池麻友子さん《それは瞬きのよう》は色彩が鮮やかな作品ですね。
立島 即興的だけど、色のバランスもいいし、動きもあって面白い。一見、抽象画に見えるけれど、植木鉢や向かいの建物もわかるし、ベランダから見た風景なのでしょうか。瞬間の捉え方がいいですね。
───風の流れも感じるような気持ちの良い絵だと思います。
───続きまして、高勒さん《初夏の祭り》はいかがでしょう。モンゴル出身の方です。
立島 表現の仕方は目新しい訳ではないけれど、古さは感じません。色のバランスは良いし、どこまで形にするかギリギリのところを、形にしようとしている。土着的、庶民的なテイストの絵だけどそこが親しみ易く、わかり易いのが良いのかな。
───そうですね。「祭り」の賑わいが伝わってくる素直な絵だと思います。さて、どんどん行きましょう! 続いて、清水潤二さん《祈》です。
立島 人物と背景が同化しようとするギリギリの間で勝負している感じがします。この消え入りそうな表現が儚い印象を与えるけれど、もう少し踏み込んだ表現も見てみたい。
───今回の入選作は真っ当な人物表現が少なく、真正面から人物を描いたのは清水さんのみでした。
立島 そう言われてみればそうですね。意識していなかったけれど、写実的な表現も少なかった。
───次は、迫力満点な金魚。白岩渓さん《囁き》。読者の方は分かりづらいかもしれませんが、30号なので、実際の絵のサイズは長辺1メートル弱。そう考えると……。
立島 随分大きい金魚ですよね。
───一般的には金魚を題材にするときは、小さく何匹も描いて画面に散らすように配置しますよね。
立島 そうそう。二匹が同じ方向を見ているし、背景もほぼ地のまま。その違和感が面白いんでしょうね。金魚の生々しさというか、毒々しさも感じます。パッと見の印象がとても強い。足を止めずにはいられない(笑)。憎めない作品です。
───鈴木智香子さん《帰る場所》はいかがでしょう。
立島 ほのぼのとしていて人気があった作品です。日常の一コマをストレートに描いている。難しいテクニックとか空間表現は使ってはいないけれども、好感が持てます。
───生活の場を描くと、ごちゃごちゃして、時にして汚い画面になってしまいがちですが、そこが抑えられていてスッキリした画面になっていますね。
立島 でもちゃんと細かいところまで描かれている。賞候補になってもおかしくなかった作品だと思います。
───続いては切り絵の作品です。タカハシシオリさん《桜燕I》。
立島 デザイン的ではあるけれど、明快でちゃんとした仕事をしていると思います。ディテールもしっかりしていてインパクトもあった。
───これまでも度々切り絵の作品が入選していますが、また違ったテイストですね。
立島 そうですね。ひと昔前までは、切り絵は珍しかったけれど、今はけっこう居ますよね。その中でも決して見劣りしない。構図も面白いし、独自性もあると思います。
───次は、多田朱里さん《無秩序》。
立島 しっかり描けていますね。所謂、風景を叙情的に切り取っている作品。押さえるところは押さえていて良いと思います。更に丁寧に描いて、色を濁らせないよう描き込んでいけばもっと上へいけるはず。
───さて、続いては、立島さんが気になっていた近澤優さん《鉄の掟》。
立島 審査会場で釘付けになっちゃいました(笑)。《鉄の掟》ってどういうこと!?って。
───インパクト絶大でしたね。タイトルもそうですけど、画面いっぱいに……。
立島 牛なのかな? きっと牛だろうな。劇画調でアングルも面白いし。他の作品も見てみたいと思わせる魅力がある。
───直海かおりさん《Singing》はいかがでしょうか。
立島 この作家は、実は以前から知っているんですけれど、花とか植物を多く描いていて、スピリチュアルなテイストが持ち味。抑制された美を感じる絵だと思います。
───中園ゆう子さん《吉兆図》は人物表現ではありますが、文様などの装飾が賑やかで面白い作品です。
立島 タイトルの通り、縁起が良さそうなモチーフが所狭しと人物の中に織り込まれているのが面白いですね。日本画でこういう人物ってなかなかありませんよね。今風なのかな。新しい表現だと思います。これから化けるかもしれない。
───多くの作品が並ぶ中でも人を引き付ける力のある作品でした。期待したいですね。次の方もまたインパクト絶大な、野尻恵梨華さん《作戦会議》。
立島 一度見たら忘れられない!
───目力もとい、絵力が強すぎますね。前回も入選されています。
立島 もちろん記憶に残っています。毒々しい感じとか、個性的。前回より整理されてきていると思います。昨年は、東京で個展を開催したり、グループ展にも多く参加していましたね。よく名前を見かけました。意欲的に頑張ってほしいですね。
───朴泰賢さん《漂着》はいかがでしょう。朴さんは韓国出身で多摩美在学中です。
立島 一見無骨っぽいけれど繊細な仕事をしていますね。絵肌も独特だし。心情というか表現したいものをしっかりと描けていると思います。
───次の方も以前入選されたことがあります。藤田遼子さん《プール》。
立島 構図の面白さが際立つ作品だね。心象風景なのかな。ぼんやりと見える人物は自分か他者の投影なのか……。
───全体的に曖昧な印象を受けましたが、そのゆらぎというか浮遊感が心地良くもあります。
立島 そうだね、そのゆらぎがこの作品の肝なのかもしれない。
───松山五番街さん《幻界集落 夏回廊》は、不思議な作品ですね。
立島 辻褄が合わない水の流れだとか、空間がねじれている感じが面白いですね。細かく緻密によく描いている。サイズが小さいのが残念だけれど、20号くらいの大きさでこの密度で描ければなお良いと思います。
───続いて山崎雅未さん《客観的な価値は絶えず変化する》。
立島 題材はゴミなんだけど、透明感が幻想的だし、朝もやのような光も美しいですね。捨てられているのは植物でしょうか。もしかしたら死生観のようなものも表しているのかもしれないですね。
───はじめはゴミに目が行ってしまって気がつかなかったのですが、よく見てみるとカラスや、人物の衣服のようなものも描かれている。
立島 そういった意味では発見がある作品だと思います。見れば見るほど考えさせられる。タイトルも妙です。
───最後の1点となりました。楊喩淇さん《庭の幽霊》。楊さんは、台湾出身です。
立島 水面に映っているのか、水に沈んで見ているのか。
───色も綺麗ですし、魅せる作品だなという印象を受けました。真っ当な日本画ですね。
立島 至極真っ当だと思いますね。海外の方は、運筆は慣れていて、上手いのですが、日本画特有の粒子の粗い絵具に戸惑う方が多いように思います。でもそれを上手く使いこなせるようになったら表現の幅も広がるし力ができると思いますね。
───早足ではありましたが、入選作家26名の作品を振り返ってきました。全体として今回のデビュー展はどういった印象をお持ちでしょうか。
立島 インパクトでは前回の方が強かったかな、という印象です。個性的な作品が多かった。今回は、テクニシャンが多い。技術はあるけれど、強い個性というのはあまり感じませんでした。ストレートに描いてきている人が多かったですね。個々にはみんな描き切ってはいるけれど。
───写実画というか、具象で細密に描く人物画が少なくなってきましたね。さすがに食傷気味というのが正直な感想でしょうか。
立島 それはあるかもしれませんね。確かに真正面から描いた人物画は少なくなったと思います。でも人物表現自体が少なくなった訳ではなく、構成などを工夫して描く傾向が強くなったのではないでしょうか。次回はまた人物でサプライズがあるかも知れませんね。
───楽しみですね。本日はありがとうございました。
入選するだけでも狭き門
受賞者は6名。グランプリ吉澤光子《繁々》は昨年に続く出品の末、勝ち取った栄誉である。当コンクールのように入選者への継続した支援を表明している企画にとっては、望ましい帰結と言え、受賞作を通して一年越しの深化を確認できたことで、審査中の緊張した空気が一瞬、和んだ。
日本画の応募作の数々をはじめとして、工芸的な手法も肯定的に引き入れた画面が多い中、純度の高い絵画性を感じさせたのは、準グランプリの塗師瑛《また雨か。》であった。素朴なちぎり絵のようだが、実は堅牢な油彩画である。作者はキャンバスをおよそ一定の幅で切ったマスキングテープで埋め尽くした後、描画面にアクセスするための窓のように、ひとつひとつ剥がしながら隙間を開け、そこに絵の具を置いていくという。ブラシストロークは大きな流れを生み出すのではなく、モザイク状の一区画の中に閉じ込められ、蠢く。一見、点描画のような並置混色を狙ったように思える画面には、過剰な仕事量が充填されており、不穏な緊張感に満ちていることが魅力。ただ、これが彼にとってベストの作品ではないように見えたことが悔やまれる。業界がこのような個性をどのように遇するのか、今後の展開を追いたい。
入選作の全てに語るに足る美点があったのは勿論だが、気になった作品を思いつくままに挙げておこう。植野綾《case》、鈴木智香子《帰る場所》、藤田遼子《プール》などなど…他にも個人的に好ましく感じられた意欲作が、落選作の中にも幾つかあった。
審査員は平等にそれぞれ定数の票を持っていて、1巡目、2巡目、そして、受賞作選考と進む度に投票を重ねる。当然この仕組みでは偏りない支持を得た者が残り、受賞に至る。現在のやり方では、どんなに熱烈な支持をたった一人の強い応援を得ても、入選にすら出来ないことも意味する。「評価しないわけにはいかない」「頑張っているのだから」という消極的な支持でありながら、失点をしないタイプのものが、入選しがちであることは否めない。灰汁が強く万人の支持は得られずとも強烈な才能を見出したいという願望は、場違いなのだろうか。
そのような試みも、拾い上げられるような評価方法を考える時期に来ているように思う。例えば主催者賞や審査員個人賞の新設など。スポンサーを募った上で企業賞でもいい。このコンクールが入選するだけでも狭き門であることを再認識するとともに、以上のようなことを思った。(画家)
自信を持って描き続け、挑戦してほしい
6月に本江邦夫先生が突然逝去された衝撃が残るなか、そこはかとない不安を抱えつつ審査会場に向かったが、それぞれの作品と対峙してゆくうち、作品の熱気に圧倒され、次第に各出品作の世界に引き込まれるように審査が進められた。
グランプリに選ばれた吉澤光子さんの《繁々》は南方風の森をモチーフに、巧みな構図と岩絵具の発色を活かした鮮やかな色彩、緻密な描き込みがなされ、植物の押し寄せるような迫力と同時に、森の奥へと鑑賞者を誘う強い引力をも生み出していた。しっかりとした描写力に基づいた力漲る画面は群を抜いていたと言える。
塗師瑛さんの《また雨か。》は、現代性と素朴な温かみが混在する独自の表現で審査員を魅了し、準グランプリを獲得した。雨という現象が視覚に与える揺らぎを、ちぎり絵のような点描で象徴的に表すことで、臨場感ある画面を創出することに成功している。新鮮な表現が強く印象に残った。
同じく準グランプリの吉原拓弥さんの《帳が下りる頃》は、完成度が高く、安定した実力を感じる作品である。伝統的なモチーフに正攻法の構図ではあるが、豊かな抒情性に基づく確かな描写がこの作品に品格を与えている。決して流行や技術に偏らず、対象を大切にした丁寧な仕事は貴重であると思う。
奨励賞を受賞された作品では、津田文香さん《ウミベノエキ》は詩情豊かな作品世界が大変魅力的で、比較的小さな作品ながらも注目が集まった。給田麻那美さんの《まどろみ》は、鋭く明快な境界線で隔てられた色面の強さと繊細な絵肌による切れ味の良さが際立っていた。三輪瑛士さんの《No.19101》は油絵具ならではの筆致を活かし、時間を平面として可視化するかのような表現が興味深い作品である。
今回入選に選ばれた作品はいずれも、独自の個性と高い熱量を感じる点が共通していると言える。また大賞を受賞された吉澤さんをはじめ、前回に続いて挑戦された出品者も多く、各作家の作品の変遷を目の当たりにできることにも喜びを覚える。今回思ったような結果を得られなかった人も、一時的な流行にとらわれず、自信を持って描き続け、継続して挑戦されることを切に願う。
審査の最中、常に心のどこかで、「本江先生がおられたら、どのような感想を持たれるだろうか」という問いがあったが、きっと今回の受賞は先生も納得の内容だったと思う。(日本画家)
次回展までの一年間をどう過ごすかが大事
今回の審査は「難しかった」というのが率直な気持ちです。審査会場には前回以上に多種多様な力作が並び、良いなと思う作品を絞っていくのが本当に難しく、最後まで気の抜けない審査でした。“入選”するまでが難しく、そこから先は賞をもらった方も入選された方も紙一重だったと思います。その中でも、グランプリを獲得した吉澤光子さん、奨励賞の三輪瑛士さん、入選の葛西明子さん、野尻恵梨華さんの作品が印象に残りました。
吉澤さん《繁々》。審査が終わるまで作者の情報は一切知らされませんが、この作品の前に立ち止まったとき、昨年入選した作品がパッと目に浮かび「あ、良くなったな!一年頑張ったな!」と嬉しくなりました。決して主張の強い作品ではありませんが、観れば観るほど魅力が伝わってくるというか、不思議な魅力を持った作品です。おめでとう。
三輪さん《No.19101》。個人的には今回この作品が一番好きでした。モチーフの男性たちを崩して描いていながらも、しっかりとしたデッサン力が伝わってくるし、配色のセンスも光ってました。強いて言えば「構図」にもう少しヒネリが欲しいかな。構図が安定し過ぎてます。“安定し過ぎた構図”は、この作品・作風に関しては魅力を半減させてしまっています。些細なことですが、頭の片隅にでも留め置いていただければ。
葛西さん《速さについて》。構図のセンスや、手の抜き加減が気持ち良く、非常に好感が持てました。ただ、街灯を描く際に使った(であろう)スプレーは不要だったかなと思います。“手の抜き加減”が作品の良さを引っ張り上げてる中、スプレーを吹き付けた部分が足を引っ張った感じがして少し残念でした。そこもアナログに手で描いて欲しかった!
野尻さん《作戦会議》。“技法・表現”という面では完成度も高く、作風が確立されていて安心して観られる作品だと思います。ただ個人的には“グロさ”の抜けた明るいテーマの作品を観てみたいです。作家には何かこだわりがあってそういう“グロさ”を盛り込んでるんだと思いますが、ストレートに「猫!」「犬!」「獅子!」といった具合で描いてみてもいいんじゃないかと思います。
これは先輩作家として毎度伝えておきますが、今回入選された方々は、次回のデビュー展までの一年間をどう過ごすかが大事です。次が開催されれば世間の目はもうそちらに行きます。充実した一年になるよう真摯な制作を続けてください。(画家)
入選作品展
会期 2020年3月2日(月)~7日(土)
AM11:00~PM6:00 ※最終日は17:00閉廊
〈第1会場〉フジヰ画廊 東京都中央区銀座2-8-5 銀座石川ビル 3F
グランプリ 吉澤光子
奨励賞 給田麻那美
奨励賞 津田文香
伊熊義和 岡部仁美 葛西明子 高勒 清水潤二 タカハシシオリ 多田朱里 野尻恵梨華
〈第2会場〉ギャラリー和田 東京都中央区銀座1-8-8 三神ALビル1F
準グランプリ 塗師 瑛
準グランプリ 吉原拓弥
奨励賞 三輪瑛士
植野 綾 菊池麻友子 白岩渓 鈴木智香子 近澤優 直海かおり 中園ゆう子 朴泰賢 藤田遼子 松山五番街 山崎雅未 楊喩淇