美術新人賞デビュー2018 審査総評&全入選作26点、一挙掲載!
デビュー2018 審査総評
本江邦夫 × 立島 惠
大胆な構図のユニークな作品
グランプリは大島利佳《高鳴り》
───美術新人賞デビュー2018には、224人の応募がありました。過去5回の応募者数はいずれも約150人だったので大幅な増加です。今回はエントリーを簡略化しました。また東北芸術工科大学、愛知県立芸術大学、名古屋芸術大学、日大芸術学部、女子美術大学杉並校舎、創形美術学校、文星芸術大学の7か所で説明会を開催させていただいた結果、充実した作品が多数応募されました。その中から書類による一次審査で109人、さらに実作品による二次審査を通過した26人が入選となりました。
本江 今年は日本画の存在感が際立っていた。実数ではやや洋画が多いようだから、日本画に良い作品が多く、それで印象に残ったのかもしれない。
立島 これまでも美大系ではない人、つまり美大で専門的な教育を受けていない一般大学出身者などの作品が目立つ傾向が以前からあったけど、今年はその印象が顕著でしたね。
───では受賞作から見ていきましょう。まずはグランプリの大島利佳《高鳴り》から。
本江 福井江太郎、石黒賢一郎、國司華子の実技系の審査員3人がずっと推していた。
立島 3人の評価が非常に高かった。私が感じたのはシチュエーションの面白さ。布団を被って寝ている女性の表現は、これまで見たことがない。ユニークさが良かった。
本江 少し平板な感じもするけど。
立島 略歴によると東京藝大デザイン科の2年生ですね。平板な感じは意図的なものでしょう。デザイン系の学生は、日本画科や洋画科の学生たちとは画面処理や絵のミクスチュアが違う。そういった別の価値観が高い評価に繋がった。
本江 なるほど、新鮮に映った。
立島 大胆に自分のイメージを思い切りよく画面に配置している。たらし込みを使っているけれども色数は少ないし、細かいところにこだわった絵ではない。思い切りの良さが功を奏したんだと思います。
───準グランプリは三村梓《ひるね》と山田さやか《いつか》の2作品です。
本江 三村さんは昨年の入選者だ。でも昨年の作品とはだいぶ違う。これはこれで面白い。
立島 本江さんはこれを推してましたね。僕も好きです。タッチは似てるけどモチーフは違う。この不自然な配置が、むしろ心に引っかかった。
本江 影の効果がいい。専門的な言い方すると、モダニズムを踏まえて描いている。
立島 一般入選を経て2回目のチャレンジで準グランプリを獲得したのは、昨年のにしざかひろみさんと同じだ。こういう頑張りは大事ですね。
───もう一人の準グランプリ、山田さやか《いつか》は福岡の中村学園女子高校の出身です。
本江 美術部が盛んな高校なのかもしれない。気持ちのいい、真面目な絵だと思う。
立島 直球の絵ですね。
本江 口元を見せない大胆な構図のほか、何を示すのか分からない部分もあるけど、まじめさが伝わる。「デビュー」展は、一生懸命頑張った絵が強い。
───奨励賞は比留間智香《夏を解かしてパンを噛む》と檜垣春帆《My clothing》の2点です。
立島 比留間さんは、個人的には今回のコンクールで一番面白かった。恐るべき可能性を秘めているかもしれない。
本江 私もひらめきというか才能を感じる。外れるかもしれないけど、そう期待するだけの価値がある。でもなぜか実技系の審査員の評価は高くなかった。昨年あたりから実技系の審査員と我々評論家で評価がはっきり分かれる傾向にあるんだけど、この作品が一番評価が割れたね。
立島 水彩をこんなに濁らせちゃってるので、上手とはいえない。でも世界観が豊かなんですよ、きっと。山の中に家が埋め込まれていたり、急須のお茶が降って来たり。
本江 理屈じゃなく目に入ってくる。なにか持っている。
立島 資料によると東京コミュニケーションアート専門学校卒業の23歳。本江さんは多摩美の先生だし、私も佐藤美術館では美大単位で奨学金を出しているので、普段から美大の匂いみたいなものを感じる。すると逆説的に、そうじゃない人の面白さがよく分かるのかもしれない。
本江 檜垣春帆《My clothing》は現代美術。「デビュー」には珍しい。
立島 いまネット検索したら「似顔絵描き」って出てきました。多摩美大の芸祭にも出てるようです。
本江 多摩美なの? 学部生かな。
立島 現代性もあるけど絵画性も十分ある。画面の強度もあるし、画面の中を線で区切っているけど小細工やテクニックに頼らずちゃんと見せられている。感覚的に上手なんでしょう。その感性は比留間さんとも共通している。こういう作品があるから奨励賞を作っておいた意味もある。
上位入賞に必要なものとは?
───一般入選を振り返っていきましょう。
立島 T-Jun《ハンバーガー》は審査のとき、話題になってましたね。タイトルがそのままで分かりやすいって。とても印象に残っている。
本江 冨田真之介《sweet soul》。岩見沢……北海道の人のようだ。
立島 北海道教育大学の岩見沢校からは、最近いい作家が出てきています。この人も写実というか普通にちゃんと描ける人だ。
本江 藤田吾翔は前々回の奨励賞だね。狙ってきた感じは分かる。
立島 《ある陰鬱な木曜日と雨の降る午後》は、きっと前回を踏まえて上位の賞を狙ったんだろうけど、もっと大胆に描いた方が良かったかな。細かく説明的な方向に行ってしまったのが惜しい。潮田和也《予告》も前々回、前回の入選者の作品。彼はよく知っているから敢えて言うと、上位賞を狙う意欲は伝わるけど、外しちゃってるかな。入選はするけど、賞には届かない。
本江 うーん。じゃ、このスタイルでグランプリをとるにはどうすればいいんだろうね。ここまではみんな描けるけども、ここからどうすればいいのか。
立島 潮田君本人にも言ったことがあるけど、画面分割とか、変形サイズとかを封印して描いてほしい。彼は描ける作家なので。
本江 それは一般論として、どの作家にも言えるね。
立島 山田晋也《私の右手を見つめる私》。秋田公立美術大学からこういういい作家が出てきたんですね。注目していきたいな。
本江 森聡《木に届くまで》は、標準作。確実に入選するという意味で。
立島 少し院展っぽさを感じる。
本江 北村友理《人々》は、アイデア賞だ。
立島 これ面白い。ありがちだけど、面白さが勝っている。
本江 寺川成美さんは、真面目な、いい日本画だ。
立島 木の幹があって、コケが生えているというこのモチーフでずっと描いている。この《苔の原》は良くなっている。
本江 福島綾子さん《忘却の記憶》は日本画のように見えますが。
立島 素材がよくわからなくて審査で話題になったアクリルの作品。でも全然アクリルっぽくないので、審査のときに驚きました。基本的には上手な人だし、こういうタイプは少ない。椿の背景に土器のような模様を描く発想も普通は出てこない。
本江 こうしてみると女子の作品が面白い。
立島 吉田朱里《料理》に登場しているのはキャラクターなのかもしれないけど、嫌味がない。絵画性を残しつつ自分のキャラとして成立している。魚の顔に表情を付けたり、胴体は肉だったり、いろんな要素を取り込んでいる。
センスに頼らないこと、想像させること
本江 刑部真由《金木犀の雨》は、いかにも女子美の洋画っていう感じがする。センスがいい。
立島 色を多用してなくて、いい空気感を持っている。もう一歩頑張ると賞が射程に入ってくると思う。
本江 その「もうひとつ」ってなんだろうね。入選からもう一歩高くへ行くにはどうすればいいんだろう。
立島 この作家に関していうと、全体の雰囲気だけで収めてしまっている。センスがいいんだけどセンスだけに頼らない別のエッセンスが必要。例えば手数をもっと入れるとか絵の具の重層的な厚みを出すとか。そうすれば、ややもすると薄っぺらさとして受け取られる印象を変えられる。
本江 それも一般的に言えることかもしれないね。
立島 久保尚子《風花》は日本画のような爽やかさがある。なかなか油絵でこういう風に描ける人はいない。
本江 確かに、気持ちのいい絵だ。
立島 服部由空《翠雨》は画面の中に植物を満遍なく描いている。中心があって奥行きがあってという絵画の前提をわざと無視して描いている面白さがある。
本江 木下千春《跳舞》もいい作品だね。
立島 木下さんは佐藤美術館でワークショップをしてもらっています。文化財保存を学んだ人なので技術的に優れています。「デビュー」に入選したことは、自分の表現を模索する上でいいきっかけになるでしょう。
本江 髙田望《記憶》は森の奥まった感じが心理的陰影に置き換わって見えてくるところが、現代的。
立島 暗がりが想像を誘う。さっきから話題になっている賞に近づく何かというのは、こういう想像させる力なんですよ、きっと。
技術、アイデアよりも明確な意図が大事
本江 上木原健二《昇華》は詩情があるけど意味深長な作品。人物の足元の赤いものは何だろうと気になる。
立島 フェイスブックを検索したら、鹿児島で有機農業をしながら描いていると出てきました。
本江 へえ。いろんな人がいるね。作品は悪くない。なかなか描ける人だ。
立島 入選だけではもったいない。
本江 木下みや《かえりたい朝》は、ブルーがいい。画面作りに工夫が見られる。知的な画面作りをしようという気持ちがちゃんとある。
立島 いろんなものを盛り込んでるけど、ごちゃごちゃしてなくて、むしろ清々しい。
本江 井伊智美《庭先草》はウッドバーニング。これって技術的に難しいんだろうか。
立島 ウッドバーニング作品は毎年何点か出てきますが、これは緻密な仕事がしてあるから、難しかったと思います。
本江 武道の《ねじれて塞がる》は、はじめ写真だと思った。
立島 墨汁に透明水彩で、これだけのものが描けるんだ。
本江 ただ、これを描くことで何を言いたいのかは、ちょっと分からないね。技術力があることはよく分かるし、アイデアもいいと思うけども、最終的に何を訴えたいのかがちょっと分からないところが、残念。
立島 でもパッと目を引く特殊な空間把握みたいなものはありますね。
本江 切り絵も毎年何人か入選するけど志帆さんは過去にも入選していた。
立島 《Virgin and Child》は聖母子像。そこに蝶を飛ばしているのはモチーフとしてはありがちですけど、絵画的に良いと思います。
本江 三好温人《時を待つ》は、若い女性が表情を見せないところがいかにも暗示的だけれども、ポーズがわざとらしく、イラストっぽく見えてしまうのが残念。
立島 むしろ私は、日本画で人物をしっかり描き込んだ作品が少なかったせいもあるけど、目立っていたと思う。背景をあまり描かず、人物だけにフォーカスしたのが良いと思いました。
───全作品を振り返って頂きました。
本江 コンクールとして「デビュー」独自のものが出てきている気がする。
立島 雑誌で継続的に活躍を紹介するコンクールは他にないし、作品販売の機会まで提供してもらえるとは、若い作家にとってありがたいはず。これからも続けて欲しいと思います。
───ありがとうございました。
デビュー展の審査に携わりはや3回目となる。その年その年に特色があると感じてきた。今年は何と言っても応募点数が随分増えたように思う。さらに多様性も増すとなると、審査はなかなか困難である。例年より審査の行方が見えづらく、今までに一番票が割れたのではないだろうか。
グランプリ、大島利佳《高鳴り》は、アクリルとインク滲みの鮮やかな発色と、冷静な人物表現の対比が印象的。
準グランプリは2点とも小作品ながら受賞。三村梓《ひるね》は、一見ほのぼのとしているが、何とも言い難い主張が漂う。フォルムの妙なのか、2匹の関係性なのか、楽しい謎だ。
もう一人の準グランプリ、山田さやか《いつか》は、鉛筆をベースとし、はっきりと黒の深さを滲み出させた。
奨励賞、檜垣春帆《My clothing》は、のびやかで少々難解な造形がじわじわと記憶に入り込む。
その他、久保尚子《風花》は、一見油彩らしからぬモチーフとその空気感に騙されるのがかえって新鮮。確かな表現力で揺れをも描く。
T-Jun《ハンバーガー》は、写実の中に独特な質感があり、取り囲む空気がどこか現実ではない「絵の中」を感じさせた。大きな作品も観てみたい。
服部由空《翠雨》、丁寧で優しい広がりが心地よい。この表現を広げていってもおもしろいのでは。
三好温人《時を待つ》、考えられた幾つかの要素とそれに取り組む姿勢が、そのまま画面に存在。・・・・・・と、どの作品からも声がし、こちらもすといった繰り返しの時間が審査であった。3年間どうもありがとう! (日本画家)
(洋画家)
絵画に求められるものは、「表現」と「その表現のための技術」である。どちらが欠けても作品としては成立しない。今回は双方を兼ね備えた作品が多数あり、受賞はとても狭き門となった。
グランプリ・大島利佳さんの作品は、色彩、線、フォルム等のエレメントによる装飾性とフラットな色面構成的な表現によって、二次元性の強い画面となっていた。その表現が現代性とデザイン性を併せ持ち、非常に洗練された表現となっている。
準グランプリ・三村梓さんは、ブルーが印象的であり、不思議かつ神秘的であった。現実の形姿に立脚しているが、画面はデフォルメによって単純化され、それと同時に圧倒的な存在感を放ち、現実とは異なるリアリティを獲得している。表現を通じてモチーフが単純化されることで本質が際立っているように感じられた。同・山田さやかさんは、デッサン力も高く、白黒に限定された独自の美しい世界観が印象的であった。繊細な仕事で完成度が高い点が評価できるが、支持体や素材の幅をより広げていくことで今後さらに表現の幅を増やしていってほしいと感じる。
奨励賞・檜垣春帆さんは、流れるような筆致とデフォルメによって洗練された画面を創りだしていた。どこかブラックユーモアが潜んでいるような表現に惹かれた。表現と情感が切り離されず、そこで巧みに昇華されている点が評価できた。同・比留間智香さんは最後まで意見が分かれたが、独自の世界観を構築している点に今後の可能性を感じた。表現のための技術をより高めていってもらいたい。
三年に渡る審査担当も今回で終了となる。デビューの名を冠するこのコンクールが、若い作家たちの一つの目標であり続けることを切に願う。審査に携われたことは、とても光栄であった。 (洋画家)
今年は、昨年に比べ 1・5倍応募者数が増えたと聞いた。
編集部が全国の美術大学や専門学校で説明会を開催したため、もっとも応募も多かったようだ。
今年の大賞は「華」がある。「華」とは、サイズが大きいとか、色が派手とか、そういうことではない。作品の奥底にある芯の強さであり、作品を見た後も、記憶に残る絵であるということである。今回の大賞はまさにその「華」を感じた。大島利佳《高鳴り》は、その堂々とした画格が満場一致の結果となった。準グランプリの山田さやか《いつか》は、作品は大きなサイズではない。なのに、なぜ人の眼をひくのか。それは、作品から醸し出す表現者の強い想い。目に見えないにおいや空気感をよく表現している。もう一人の準グランプリ三村梓《ひるね》は、なんともおだやかで暖かな雰囲気を感じる。何でもないことを何でもなく表現することこそ難しい。それを軽々と超えている姿は清々しい。
奨励賞の比留間智香《夏を解かしてパンを噛む》は、審査中、一番目を引いた。見るものに「なぜ?」と思わせる強い主張がある。本人にお会いしてみたい。デ
ビュー展ならではの奨励賞だ。もう一方の奨励賞、檜垣春帆《My clothing》は、顔が見えない少女(?)が左手でどくろを持つ、姿が描かれている。一見、自分の頭蓋骨?とも思わせる。そのストーリー性がとてもユニークで絵画的に感じる。見るものを違う世界に引き込む強い画面が好感を持つ。
今回の応募作品は、作風や技法、モチーフなどが画一的でない、デビュー展ならではの作品が集まったと思う。門戸は広い方がよい。言葉の壁が超えられる絵画芸術なのだから、日本人以外からも応募があったらなおよい。3年間楽しい審査でした。みなさん、どうもありがとうございました。(日本画家)
入選作品展
会期 3月12日(月)~17日(土) AM11:00~PM6:00
会場
〈第1会場〉フジヰ画廊 東京都中央区銀座2-8-5 銀座石川ビル 3F
グランプリ 大島利佳
奨励賞 檜垣春帆
井伊智美、上木原健二、木下みや、志帆、T-Jun、寺川成美、山田晋也、吉田朱里
〈第2会場〉ギャラリー和田 東京都中央区銀座1-8-8 三神ALビル1F
準グランプリ 三村梓
準グランプリ 山田さやか
奨励賞 比留間智香
潮田和也、刑部真由、北村友理、木下千春、久保尚子、髙田望、冨田真之介、服部由空、福島綾子、藤田吾翔、武道、三好温人、森聡