美術新人賞デビュー2017 審査総評&全入選作27点、一挙掲載!
デビュー2017審査総評
本江邦夫 × 立島 惠
「異才」を印象づけたグランプリ作品はじめ入選作にも変化の波が。
本江邦夫(審査員長・多摩美術大学教授)、立島惠(佐藤美術館学芸部長)の両氏が波乱の5回展を語り尽くす。
<月刊美術2017年3月号掲載>
──5回目となる今年は149名の応募の中から、一次の書類審査で91作が選ばれ、昨年12月2日の二次審査で入選27作が選ばれました。応募総数は昨年155名でしたから、若干の減少です。
立島 若手にとってコンクールは大事なチャンスなので、主催者側は応募を待つだけではなく、より積極的にPRして欲しいですね。
──美術新人賞デビューは今回アートフェア東京のブースや、各大学での説明会を新たに始めました。来年以降も継続して、PRにつとめます。それでは選評に移りましょう。まずはグランプリ受賞作の柏倉風馬さん《Les Enfants Terribles》からお願いいたします。
本江 どちらかというと、作家側の審査員3氏が推していた感じでしたね。もちろん受賞に相応しい力のある作品であることに異存はないんですが。
立島 今年は珍しく、我々評論家側と、作家側の審査員の意見が少し割れた気がしましたね。
本江 そうですね。「デビュー」という名前からもわかるとおり、このコンクールは美術マーケットの中で活躍するプロを本格的に目指す若手を対象としていて、その趣旨に沿って受賞・入選作を選んできましたよね。そういう意味では、今回のグランプリはちょっと異才という感じがしましたね。とはいえ、改めて作品を見てみると、やはり「オッ」と思わされるものがあります。もうちょっと力強さがあるとなお良いと思いますが。
立島 東北芸術工科大学出身ですね。
── 一見日本画のようですが、大学・大学院では洋画コースで学んでいるようです。
本江 日本画じゃないんだ! 素材は何なの?
──パネルに錫箔、和紙、鉛筆、アクリル……日本画的な素材ではありますね。ところで「デビュー」ではこれまでも地方の大学出身者が多数受賞・入選しています。第2回のグランプリの財田翔悟さんも柏倉さんと同じ東北芸工大出身です。
本江 彼らは強いよね。根性があるというか。
立島 私もそう思います。作品の話に戻ると、たしかに難解というか、アートマーケット的には難しい作風だとは思うんです。ただ、実は柏倉さんは佐藤美術館の昨年の奨学生なんです。(資料を見せながら)そのときの作品がこれなんですが……。
本江 ああ、今回の作品の方がずっと良いね。はるかに見る側に寄り添っている気がします。
立島 そうでしょう。だから、この「デビュー」の趣旨を、柏倉さんなりに理解して今回出品してきたんだと思うんです。
本江 そうですね。最初に言いましたが、作家の3氏がこの作品を強力に推したわけですよ。そのとき私は彼らの見方に感心したんです。言い方は悪いけれど、「売り絵」以外のものもちゃんと見ているんだなと。
──画家として「この人は放っておけない」という思いがあったのかもしれませんね。
本江 そうだと思う。なにか熱いものがあったんだと思うよ。私と立島さんに潰されてなるものかって(笑)。とにかく、奨学生展の絵よりは今回の方がずっと良いですよ。
立島 たしかにニッチなフィールドで活躍するタイプだとは思うんだけれど、今回こういうキッカケができたわけだから、マーケット寄りの表現に挑戦してみても良いかもしれませんね。新たな可能性を拓いてほしいですね。
──続いては準グランプリの2作品。にしざかひろみさんの《一月》からお願いします。
立島 以前、銀座のギャラリーで個展をやっていたのですが、小品が多かったとはいえ会期半ばにして完売していたと思います。
本江 それはすごい。タマグラ(多摩美術大学グラフィックデザイン学科)出身なんだ。
立島 年齢的にも中堅ということでやはり地力がありますよね。ただ、作品のサイズが小さかったのが残念でした。もう少し大きければ、この作品がグランプリを獲っていた可能性もあったかなと。
本江 それはあるでしょうね。
立島 ただ、先の個展の作品はもっと小さいものばかりだったので、これはデビュー展を意識して、大きくして出品してきたのかなとは思います。
本江 一見版画のようですが、ペンと水彩で非常に緻密に描きこまれてるんですね。だから大きくするのは難しい部分があるのかもしれません。
──受賞の決め手となったのはどんなところだったのでしょう?
立島 やはり小品ながら全体の中で目立っていましたし、作品としての完成度が高いと思いました。
本江 同感ですね。よく出来た作品だと思います。
──ところで、にしざかさんは前回も入選しているんですが、過去の入選者が賞を獲るのは初めてのことなんです。
本江 そうなんだ。それはいい事例だよね。粘って頑張って、それが結果に結びついたというのは。でも、そうやって粘り強く出品してくれる人がいるということは、やはりコンクールのレベルが高いということだと思いますよ。今年も応募数は少なかったと聞きましたが、総じてレベルは高かったと思いますよ。
立島 そうですね。にしざかさんに話を戻すと、彼女はきちんと描ける人だし、堅実に安定して作家活動を続けていけると思います。
本江 独自のものをしっかり持っていますし。
立島 そういう意味では、グランプリの柏倉さんの方が未知数な部分が多いですよね。まだ若いですし、期待も不安もあるという。もちろん本人も同じでしょうが。
──もう一人の準グランプリ、あらきかずまさん《森》に参りましょう。
立島 この人は、三菱商事のアートゲートプログラムの入選の常連なんですよ。私も審査に携わっているんですが、ほぼ毎回出品しています。とても上手だし、完成度も高いと思います。ただにしざかさんと同じで、非常に細密な絵なので、大きい作品は描きにくいところがあるというタイプですね。
本江 安定してるよね。見る側のツボを知っているというか。京都精華大学のビジュアルデザイン学部卒業ですか。じゃあ今回は、準グランプリの二人ともデザイン系の人なんだね。
立島 そういうことになりますね。しかし、あらきさんは今回の作品も上手いですよ。この白いところなんか、描写ではなく画面の地色だけで表現していますから。かなり手がかかっていますよね。
──非常に密度の高い絵という印象です。続いては奨励賞に移りましょう。まずは青木惠さんの《より一層深く息をして》からです。
本江 多摩美出身だよね。
立島 この人も佐藤美術館の奨学生です。ちょうど10年前の奨学生です。精力的に発表を続けていて、今度、若手を数多く応援している銀座の靖山画廊で個展をやるようです。
本江 そういえばこの間、靖山画廊のすぐ近くのお寿司屋さんで会いましたよ。なんでも彼女のご親戚が経営しているお店だそうで、そこでアルバイトをしているらしく。美味しかったですよ。
立島 そうなんですか。去年でしたか、京都の大雅堂で個展をやっていて見に行ったんですよ。そうしたら新しい試みを色々とやっていて。今回の作品もその一環だと思うんだけど。
本江 金属の板を敷いて、その上から描いているようですね。青木さんは以前から知っているんだけど、今回の作品は彼女の作品だとわからなかったですよ。
立島 ええ、最近変わってきてるんです。ほぼ無所属でやっているんですが、粘り強く描き続けていて感心します。
──今回の受賞作の魅力というのも、やはりそのあたりになるでしょうか。
本江 そうですね。デッサンの部分と彩色の部分を描き分けているところに興味を惹かれましたね。以前の作風とずいぶん違うんですが、今の方が自分のスタイルを手に入れつつあるように感じますね。まだ模索中なんでしょうが、大変な努力家ですよ。彼女がグランプリを獲ってもおかしくはなかったと思います。
──もう一人の奨励賞は秋元はづきさんの《静物─aka ─》です。
立島 するするっと入賞してきましたね。
本江 特に國司さんが推してたかな?
立島 補色を使っていて色のバランスがいいですし、雰囲気を出すのが上手な作家ですね。
本江 出身は名古屋芸大? やはり地方が強いんだねえ。バランスがとてもいい絵で、申し分ないですよ。
立島 細かいところを見ていくと、画面に上手く抑揚をつけていて、実際はかなり描ける人なのかもしれません。
──それでは続いて、入選作の中で気になったものをピックアップいただければと思います。
本江 まず審査全体の印象ですが、写実作品が厳し目に見られた感じがありましたね。写実に対する飽和感みたいなものがあるのかもしれません。余程のものじゃないと認められない、みたいな。
立島 それはあるかもしれません。他の様々な公募展を見ても、以前に比べて写実作品が減ってきている印象を受けます。美術界全体で見ても、写実、特に人物が減っている気がします。悪いことではないと思いますが。
──今回の応募作でも、飛び抜けていい写実作品がなかったという印象でしょうか。
立島 そうですね。加藤寛史さんなんかは筑波大学出身で、過去の入選者ですが、よく描けてはいるけれど、受賞にはもう一歩という感じでしたね。
本江 入選はするだろうという感じはありましたけど。他に個別で見ていくと、中村美津穂さんの《見る─No.3─》は毛色が変わっていましたね。明星大学出身でシルクスクリーンを使っていると……シルクスクリーンをこんな風に画素のように、物質的に使うというのは、最近流行してるんだよね。同姓の女子美術大学の中村花絵さんあたりがそういうことを始めたんだけど。
立島 芳賀雅之さんは昨年の入選者ですよね。学歴は書いていないのでわからないんですが、美大系じゃないような気がします。ホキ美術館大賞展などで入選している実力者ですが。
本江 審査では芳賀さんのようなタイプの絵がいくつかあって、好感を持っていたんですが、ことごとく落選してしまって残念でした。
立島 そうでした。鈴木優香さんは愛知県芸出身ですか。愛知の日本画は最近女性像を描く作家が多く出てきていますよね。
本江 まだ学部1年生! 96年生まれですよ。驚きました。それにしては上手だよねえ。しなやか。
立島 年齢に似つかわしくない細やかさがありますね。学部でこれだけ描けるなら、将来が期待できますね。
本江 末恐ろしいね。福島沙由美さんはよく聞く人だよね。
立島 そうなんです。上野の森美術館大賞展で大賞も獲っている実力者ですよ。
本江 でも今回は十分に力を発揮できなかった印象ですね。
立島 本来の実力からすれば入賞はできると思うんですが。
本江 街の風景が逆さまに水面に映りこんだような面白い仕掛けがしてあるんだけど、そこに目が行かなかったな。面白い絵ではあるんだけど、何かが足りなかったのかもしれません。
立島 谷口朋栄さんもすでにキャリアのある人ですが、頑張ってますよね。愛媛生まれで四国の鳴門教育大学出身。アートアワードネクストやFACE でも入選していますね。
思うんですが、もともと多摩美、武蔵美、女子美などの東京勢がいて、その次の世代として東北芸術工科大学や京都造形大学が入ってくるという多様化の流れがあったわけです。しかし、現在はさらに多様化が進んでいて、佐賀大学や富山大学、筑波大学など、いわゆる教育系の大学出身の新人がマーケットに出てアートシーンに入りこんでくるという、新しい勢力図ができているような気がするんです。その原因の一つに、優秀な先生方が全国の大学で熱心に指導をしていらっしゃることが挙げられるかもしれません。佐賀大学で教鞭を執る洋画家の小木曽誠さんや、写実画の奇才として知られる広島市立大学の諏訪敦さんといった実力のある画家に教わって育った人たちが活躍しています。そうした多様化は歓迎すべきことだと思います。
──大学や教室ごとのメンバーによるグループ展を積極的に企画している画廊も増えています。
立島 画廊が舞台を整えてあげることが、需要と供給を結びつけることにつながっています。
──このデビュー展もその一助になれればと思っています。全入選者に言えることですが、プロの画家になるという彼らの夢を誌面を通じてしっかり応援していきたいと思います。
本江 イクタケイコさんの《美しい世界ト、降りつもる祈りト、》も面白いよね。コラージュを効果的に使って、よく描けていたので印象に残っていますよ。三村梓さんの《海辺》も好印象でした。
立島 この作品はよかったですね。とても伸びやかで。《木洩れ日》の舘山浩丈さんもホキ美術館大賞展などで見ていて印象に残っていた作家です。《噛まれたあとがよくない》の佐藤麗生さんは広島市立大学出身ですね。あと、これは意外と面白かったな……この「醤油」(笑)。
──梶川能一さんの《しょくたく》ですね。
立島 毎回だいたい一つはこういうタイプの作品が入ってきますね(笑)。
本江 そうだね(笑)。印象に残っています。
立島 瀬戸口祐佳さんの《めくるめく》は院展っぽいですけど……尾道市立大学出身ですか。院展系の先生方がいらっしゃるところですね。本多翔さん《一樹》も院展入選ですか。
本江 金子一生さんの《homunculus》は賞の最終候補にまで残っていた良作ですね。東海大学海洋学部卒ですか。驚きました。とてもよく描けていたから。非常に誠実な感じがしますね。
立島 佐藤奈都弥さんの《蚊取り線娘》も面白かったですね。京都造形大出身……これは「かとりせんこ」と読ませるのかな。ちょっとシュールで面白いですね。もう1点シュールだったのが金沢美術工芸大学出身の富田伸介さん《利き足》です。
本江 廣岡元紀さんは広島市立出身で、三菱アートゲートプログラムに2度入選ですか。派手さはないけども堅実に描いていますよ。
立島 《祈りにふさわしい場所がきっと見つかる》の潮田和也さんは去年も入選していますね。文星芸術大学出身でテンペラの技法についての論文で博士号をとってるんですよ。
本江 大したもんだね。
立島 彼とは去年のデビュー展で知り合ったんですが、今どき珍しく、動きがとても積極的。偉いと思いますよ。
──「デビュー」も今年で節目の5回を迎えました。今後、アートシーンの中で本コンクールが果たすべき役割をどのように考えていけばいいのでしょうか。
本江 先ほど話が出たけれども、若手画家の勢力図というのもどんどん多様化しているわけです。それに合わせて、コンクールも柔軟に変化していくべきだと思います。審査員のリニューアルは昨年に一度行っていますが、募集方法や年齢制限など、コンクール自体のリニューアルを考えてみてもいいのかもしれません。
立島 そうですね。せっかく質の高いコンクールなんですから、より幅広い層の人に応募してもらうためにも、募集要項を見直してみてはどうでしょう。
──リニューアルのご提案も頂きましたので、よりよいコンクールを目指して努力していきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。
グランプリの武器は「見る側の想像力」
なんだか解らないという強み、とでも言えばよいのだろうか。グランプリの柏倉風馬《Les Enfants Terribles》は選考が終わるまでじわじわと残っていった。写真には写り辛いが、黒の質の変化とバックの白の幅などが画面に揺れのようなものを生む。見る度に印象が違い、見る側の想像力という武器を携えることとなった作品と言える。
準グランプリのあらきかずま《森》。精密な山々と白く抜ける雲海、軽快かつ冷静な配慮の妙。大作を見てみたい。
同じくにしざかひろみ《一月》。暗闇においてスポットライトで捉えられてしまったような感覚は大変映像的。小さいながらも緊張感大。
奨励賞秋元はづき《静物-aka-》。色感の美しさとのびやかな筆運びが目を引く。色を主題とした感覚的な仕事を形にしていく具合が清々しい。
入選作では、まず富田伸介《利き足》。全体に抑えた色調において選択されたネックラインの色の響きと、謎の構図がなぜか脳裏に残る。画面の一回り外側が見たかった。
福島沙由美の《Spandau》は、ひっくり返したら何かがとろりとする。不思議だ、そんな経験に覚えがある気にさせられる。
館山浩丈《木洩れ日》は、やりきった先に生まれたのであろうこわいまでの緊迫感と違和感がひたひたとそこに存在する。
谷口朋栄《もうひとつの宙色》は技法と感性の双方がこだわりながらも遠慮がちにせめぎ合う。
佐藤麗生《噛まれたあとがよくない》は、マットで不透明な色の扱いと題材が独特。画面に温度を感じないためか、夢の中のような、舞台の上のような不思議な感覚を受けた。
金子一生《homunculus》は、確かな技術に対比する主観的なモノの捉え方が印象的。展開に期待。
審査参加は2回目、ここからは昨年同様申し上げたい。傾向と対策など全く不要。どうぞこちらを驚かせてください、面白がらせてください、そして黙らせてください!
(日本画家)
目立つ大胆な表現の減少
デビュー展の審査は今回で2度目であった。
近年はイラストと絵画の垣根が無くなってきている。様々な表現方法による作品を見ることができるので、とても新鮮である。
まずは、グランプリを受賞した柏倉風馬さんの《Les Enfants Terribles》。特に印象的だったのは、独自の世界から生まれた幻想的な光景を、繊細な表現によって可能にした点である。奇怪な人物群らしき物体の存在感、そして白黒のトーンの美しさには強く惹きつけられた。人間の限界とは想像力の限界である。そこに制限を設けてはならないことを体現した作品であった。
次は、準グランプリのにしざかひろみさん《一月》。一見すると版画のようにも思えたが、ペンを用いた細密描写であった。繊細な表現によって独自の雰囲気を作り出すことに成功しており、全体がほぼモノトーンによる静かな世界である。「神は細部に宿る」と言うが、作者の細やかな神経が画面全体に行き届いた様子はその言葉通りと言える。
同じく、準グランプリのあらきかずまさん《森》。ペンによる細かい線の集積によって全体が緻密に描かれており、作家自身のフィルターを通した表現が、溢れる生命の息吹を感じさせた。自然と対峙することで生み出された繊細な描写が印象に残る、美しい作品であった。
奨励賞は青木惠さん《より一層深く息をして》。ありがちなセンチメンタリズムからは距離を置き、フォルムと色彩によって装飾性の強い独自の空間を作り出していた点に好感
が持てた。
同じく奨励賞の秋元はづきさんの《静物-aka-》。色彩とフォルムの関係性がとても美しく、色感の良さも感じた。モチーフと作家との内的な繋がりをより深めてほしいと感じた。
今回は完成度が高いものが多かったが、その一方で、大胆な表現による作品は前回よりも少なかったように思う。次回は、オリジナリティー溢れる大胆な作品に出会えることを期待したい。
(洋画家)
荒削りのなかの魅力と集中力
入選作品の選考が進むにつれ、グランプリ受賞の柏倉風馬《Les Enfants Terribles》は、あきらかに他と違う雰囲気を放っていた。グレーの中間色を多様化した色彩と、技法の複雑さが作品に深みを与えている。プロの仕事というのは、作品の裏に何かを感じさせる力だと思う。作品世界に引き込む強い魅力を感じる。満場一致のグランプリ受賞だった。
準グランプリのにしざかひろみ《一月》は、小さいサイズながら密度が濃く、強い存在感で選考はじめから目を引いた。あらきかずまの《森》は細密な線描の集積で画面が埋め尽くされている。そのため、描かれていない白色の地が目を引き美しい。
奨励賞の秋元はづきの《静物-aka-》はボナールを彷彿とさせる色彩の美しさと大胆さは秀逸である。青木惠の《より一層深く息をして》は、作品を見たとき、なぜ? という疑問が沸く。男性の頭上にハイビスカスが咲いている。ぜひ、本人に聞いてみたい。その他、潮田和也の《祈りにふさわしい場所がきっと見つかる》、加藤寛史の《卓上動物園│ヴァニタス│》、金子一生の《homunculus》の対象を見つめる真摯な仕事にも注目したい。
今年のデビュー展は、総体としてレベルが高かった。そのため、入選から漏れた作品にも記憶に残る作品が数多くあった。しかし、人の目に焼きつく作品というのは、描いている本人も発見し感動しながら描いているからこそ輝いて見えるのだろう。本年の受賞作は、荒削りながらも作品にのめり込む集中力と作品に対する愛情の深さが人を引きつける魅力に繋がった。
(日本画家)
入選作品展
会期 2月27日(月)~3月4日(土) AM11:00~PM6:00
会場
〈第1会場〉フジヰ画廊 東京都中央区銀座2-8-5 銀座石川ビル 3F
(秋元はづき、イクタケイコ、今福康介、柏倉風馬、金子一生、佐藤麗生、鈴木優香、瀬戸口祐佳、芳賀雅之、廣岡元紀、福島沙由美、三村梓)
〈第2会場〉ギャラリー和田 東京都中央区銀座1-8-8 三神ALビル1F
(青木惠、あらきかずま、潮田和也、梶川能一、加藤寛史、坂場加奈子、佐藤奈都弥、舘山浩丈、棚町宜弘、谷口朋栄、富田伸介、中村美津穂、にしざかひろみ、本多翔、湯澤美麻)