美術新人賞デビュー2023 審査総評&全入選作27作家 一挙紹介!
〈美術新人賞デビュー 2023〉の受賞&入選者が決定!応募総数190名の中から、書類、実作品の審査を経て、受賞5名を含む入選27名が選ばれました。
ここでは、審査員の立島惠、土方明司の2氏によるコメントともに入選作品を一挙に紹介します。
対談 立島惠×土方明司
第11回のグランプリは福濱美志保さん《Around the Clock》
(月刊美術 2023年3月号より抜粋)
──今回で11回目を迎えた本誌主催の絵画コンクール〈美術新人賞デビュー〉。書類による1次審査を通過した90名を対象に、実作品による2次審査を経て、入選27作家が決定しました。審査員は、前回に引き続き、立島惠、土方明司、永山裕子、塩谷亮、岩田壮平の5氏。ここでは、評論家・審査員である立島、土方両氏に選考を振りかえっていただきます。
立島 毎回思うのは、エントリー数は年によって若干増減があるけれど、全体的なクオリティーは少しずつ上がっている。それはデビュー展の知名度が上がっているってことなんじゃないでしょうか。
土方 他の公募展で入選、受賞しているような実力者がデビュー展に応募してきているのも目立つ。
──グランプリの福濱美志保さんは、星乃珈琲店絵画コンテストでもグランプリを受賞されています。
土方 フィレンツェ賞でグランプリを獲った杉山花菜さんもそうだし、林銘君さんは、八王子の夢美エンナーレで準大賞を獲っているし、未来展(日動画廊)でも大賞を受賞している。「デビュー」展といいながら、実力者の登竜門という性格も持ち始めている。実際こうやって見返してみるとみんなあるレベルは超えていて、技術力もさることながら、オリジナルなヴィジョン、世界観を絵に託しているという点が非常に好ましい傾向だと思います。
立島 大小様々なコンクールが増えた。その中で、独自性みたいなものを打ち出していくこともこれから大変になってくる。デビュー展の強みは、誌面でフォローアップしているところにあると思うから、継続的な支援にもっと力を入れていけたらいいなと思います。
◆独自の世界観が光る受賞作品
──それでは、さっそく受賞作品から振り返っていきたいと思います。まずはグランプリ福濱美志保さん《Around the Clock》。
土方 福濱さんは、非現実的な世界のなかに、一つのオリジナルの物語を作っていくような制作を続けている。それが不思議な説得力があって、「白日夢」のような世界。個人的な内的なヴィジョンなんだけれど、個人の世界に没していないというか、物語性があることによって、人に伝わる力、共有できる力を持っている。そこが彼女の強みだと思います。ありそうでない絵。
立島 ミニチュアのモチーフのセットアップの仕方がうまい。こういう世界観って今の同世代に共感されるんじゃないかな。
土方 現実の世界があまりに乱暴すぎて非現実化してきちゃっている。そうすると、逆に内面の世界に説得力が生まれてくるんだと思う。
──グランプリの大きな決め手はなんだったのでしょう。
土方 作家本人の絵に対する世界観とそれを絵に落とし込む技術力のバランスが一番取れていた。そして、オリジナルのヴィジョンに説得力を持たせるための描写力が高かった点ではないでしょうか。これから伸びていく作家だと思います。
──準グランプリは2名。まず城戸悠己子さん《ト音記号第4線レ・第5線ソ♭(音)》。
立島 以前から作品を見ていますが、これまでの作風とはがらりと変わっている。
──10年くらい活動休止をしていたようです。
土方 再デビューですね。
立島 人物を多く描いていた印象だったけれど、このリスタートで風景に挑戦してみたのかな。思い切って作風を変えてきていて良いと思う。そこも評価したい。
土方 風景の中に、時間や空間の裂け目みたいな、日常とは違った不思議な異空間のようなものを生まれさせている。他の入選作品とはちょっと違った表現が良かったと思う。
──もう一人の準グランプリは原澤亨輔さん《pink screen》。
立島 日本画なんだけれど、構図とか絵肌も含めて日本画っぽくない。日常風景で、シチュエーションとしてはこれまでも描かれている風景だけれど、良い意味でまとまりがある。
土方 ここ近年、日常のささやかな情景を丁寧に掬い取って、それを自身の内面的な世界に落とし込むような作品が増えている。それがうまくできる作家は強い。
──奨励賞は青木裕美さん《あなたと過ごした夢のなか》、平野瞳さん《エデン》の2名でした。青木さんは過去にも奨励賞を受賞しています。
土方 カラフルで柔らかな線描で風景を描いている。
立島 以前に増して全体のマチエールとか影とかを効果的に描いている。僕は好きな作家なんだけど、あと一歩届かないのが惜しい。
土方 思い切ってモチーフを変えてみるのも良いかもしれない。
立島 それも1つの手段だよね。でも、描き方は個性的で目を引くから、このままのスタイルを貫いてほしい。
土方 絵はうまいし、雰囲気もあるんだけど、街頭風景で何が伝えたいのかがちょっと弱いのかもしれない。
────平野さんは銅版画作品です。
土方 すごく好きな作品です。油絵や日本画に比べると版画は少し不利になってしまうんだけど、オリジナルの魅力があって引けをとらない。
立島 この作品も何気ない日常の一コマなんだけど、彼女なりの個性が出ている。銅版画のモノクロームの世界に土方 すごくマッチしていると思う。濃い陰影が効果的。黒がより魅力的に見えて、これこそ銅版画という感じでした。
◆日本画、油絵の境を越えて多様化する表現
────続いて入選作品を見ていきましょう。青木薫さん《航路》は審査会場で話題に上がっていました。
土方 普通の人物が森のなかで船に乗っているだけでも不思議な物語性があるのに、描かれる人物がちょんまげを結っていて、正直ちょっと作り込みすぎかなって思ってしまった。
立島 絵の背景に伝承などがあるんだろうね。
土方 作品1点だけで伝えるのは難しかったと思う。
立島 個展でやると面白いと思う。審査員みんなでどういう絵なのかすごい議論になって、目立ってた。
──井上咲香さん《よめない風》、王甜甜さん《偽物語》は、独特な表現で目を引きました。
土方 井上さんは、線描を重ねて不思議な人物を描いている。生命体としての「ニンゲン」を描きたいっていう気持ちが強いのかもしれない。
立島 目がよく描き込まれている。描きたいのは目なのだろうね。王さんは異空間が際立っていた作品でした。
土方 作者自身のなかで一つのストーリーが出来ている。
立島 人物もそうだけど、独特な背景描写も面白いと思う。
土方 真実も虚偽も合わせ鏡であるということを表現したんでしょうか。
──続いて、何承霖さん《白山Ⅶ》。
土方 現代版の山水画ですね。嫌な感じはしない。
立島 墨は使ってないようだね。日本画材を主としたミクストメディアだね。様々な解釈が出来そうだ。
──河井眞里枝さん《千波万波》はコミカルさもあって楽しい作品です。
立島 爬虫類(イモリかな)をずっと描いていて、一匹ずつの模様も変えている。日本画の伝統的な様式を取り入れながら現代的なポップさもあって、面白い。
──一方、簡維宏さん《向陽》、工藤彩さん《擬態》はオーソドックスな日本画作品です。
立島 簡さんは、ひまわりの種のところをひとつひとつ盛り上げているね。夏の蒸すような空気感を、洗ったり削ったりして、「画面との対話」を重ねて作っている。
土方 外連味のない作品だと思います。工藤さんも一見地味で渋さもあるけれど、表現がうまいから、そこが良さになっている。
立島 岩絵具を効果的に使って、線の仕事と盛り上げの仕事とで画面に抑揚をつけている。こういうスタイルで描く作家も多いんだけど、工藤さんはバランスがうまく取れていると思います。
──シバタマミさん《ROOM》も岩絵具を使っていますが、雰囲気がまったく違います。
土方 デザイン的な感覚とタブローとしての感覚がうまく合っている。一歩間違えればデザインの要素が強くなってしまうけれど、絵としての力を持っている。色の使い方にしろ、形もうまくデフォルメしていて、構図も独特だし、輪郭線を太く描いたりして、面白い作品。なんとなくレトロな感じがしてそこもまた面白い。
──シュライナー・コールさん《終盤戦》、杉山花菜さん《帰る》はどこか不穏な気配が漂う作品です。
立島 コールさんは、今の社会を匂わせる。そして、画力もある。
土方 世界の終末感というものをそこはかとなく感じられるよね。人類の文明の「終盤戦」という感じ。
立島 奥の窓に吸い込まれるような、禍々しいイメージがよく出ている。
土方 杉山さんは、スーパーリアリズムというか、写実を極めた技術で、日常の風景を描く。面白いのは、その中でどこか不穏な感じがするところ。日常の風景の中に忍び寄ってくる不穏な感じが引き付けるんだろうな。
──髙栁基己さん《市場の名店》は、いかがでしょう。
立島 引いて見ると、群像が見えてくる。正面の人物はどちらかというと写実的に描いているんだけど、背景の粗いタッチが、ギリギリ抽象な群像になっているのが面白い。
──続いて津田文香さん《サボテンノモリ》と手塚葉子さんの《行方》。津田さんは2021年の準グランプリ、手塚さんは前回入選作家です。
立島 津田さんは絵の雰囲気ががらりと変わったよね。タッチが柔らかくなって、フォーカスしているところも全然違う。彼女自身で変化をつけようと思ったのか、表現プロセスのなかで変わってきたのかわからないけれど、評価したい。植物の表現、背景の奥行き感も良いと思う。反面、手塚さんのように、一貫してブレずに描くってことも大事だと思う。
土方 これだけ余白を余白として使う人はあまりいない。余白を生かすために人物を白く塗って際立たせているし。いつも風とか目に見えないものをテーマにして描いている。
──中村文俊さん《と或る日の悩み事》も目立っていた作品でしたね。
土方 日常のなかに潜む怖さみたいなものを描く作家。密室劇みたいで、ペンギンを物語の依代にしている。ただ、ここまで雑然としなくても良かった。もっと上に行ける作家だと思う。
──野村日向さん《不認歌》は捉えどころない混沌さがありました。
立島 正しくカオス。妙な感じで気になる作品でした。
土方 まだ描き慣れていない印象も受ける。良い意味でも悪い意味でも学生らしい作品だなと思います。
立島 可能性を感じるので、たくさん絵と向き合って自分なりの表現を見つけ出してほしい。
──続いて、廣岡元紀さん《ぬいぐるみのワニ4頭とクレパスの沼》。
土方 独特のユーモアがあってスタイリッシュ。ちょっと手仕事みたいなところもあって面白い。架空の世界を自分なりに膨らませて絵に落とし込んでいる。
──房鑑成さん《緑の影》、増田舞子さん《かえり道》はともに構図に注目が集まりました。
立島 房さんの作品は、シチュエーションをどういう風にして切り取るかが大事だと思う。細かいところもちゃんと描かれていて良い作品なんだけど、もう少し整理できたらすっきりすると思います。
土方 場面の切り取り方をもう少し工夫してもいいかもしれない。下の方が目立ち過ぎちゃって、逆にメインモチーフがわかりづらくなっちゃう。描く力量はある人だと思うかこれから伸びると思います。
──増田さんの作品はいかがですか。
土方 増田さんは、思い切った構図の取り方がうまくいっている。下の方に小さく見える梯子に気がついたときの驚き。どこへ向かうのか…彼岸への道っていうのかな。大胆な構図と繊細な表現が良かった。
──山本真矢さん《口煩かった祖父》は、ある意味衝撃的でもありました。
立島 タイトルも絵もある意味直球。
土方 審査員はまずタイトルでやられていましたね。描いている題材そのものはエグいんだけど、それが露悪的になっていない。ちょっとお洒落っていうか…「グロテスクオシャレ」というか…。ちょっと皮肉的っぽくも、あっけらかんとした感じが好感を持てました。
──吉川薫さん《跳ねまわる白い歯》は、自身で焼いた磁器を貼り付けた作品です。
土方 面白い作品だと思ったけれど、画面をもうちょっと整理してほしい。ごちゃごちゃした感じをもうちょっと整理するとうまくポップになると思う。
立島 絵肌とか貼り付けているものが強過ぎるのかも知れない。
土方 人物一人一人が面白い表現なのに、目がいかない。もう少し人物を目立つようにすればもっとよくなる。混沌さも魅力だけどね。
立島 主従関係がハッキリしないって感じはあるけど、このとりとめのなさを評価したいなっていう気持ちもある。
──続いて、余梦婷さん《梦祭》はいかがでしょう。
土方 余さんは、スケールが大きい作品を描く作家なんだけど、毎回奇想天外な舞台を変えてくる。世界がぐるぐる回っているようなダイナミックな構図をオリジナルで作ってくる。そういった意味では面白い。
立島 こういう世界観が、頭のなかで渦巻いているんだろうな。
──最後は、林銘君さん《渦巻》はいかがでしょう。
土方 圧倒的にうまいと思う。繊細な線描と表現力が抜群。
立島 カタツムリと幾何学的な形態を組み合わせている。メディアは完全にミックス。日本画専攻だけど、素材に関しては、こだわりはないんだろうな。
土方 既視感がない。似たような絵を僕は思い浮かばない。そういった強みもあるよね。これからが楽しみな作家です。
立島 デビュー展の第1回から受賞作品を振り返ると、いわゆるスタンダードな写実の世界から、回を重ねるごとに自分の内省、内面性みたいなものをどういう視点で切り取っていくのか、という「新鮮な表現」を評価する流れに変わってきたのが見てとれる。今回の受賞作品を見ると描画の仕事も写実的な仕事も両方入っていて、受賞者のまとまりは今までのなかで一番だと思う。多様性も担保しつつ、順調な歩みを進めているんじゃないかと思います。
──以上、入選27作家を振り返っていただくとともに、コンクールとしての進化を実感しました。本日はありがとうございました。
審査員 選考評
永山裕子 (画家)
必死で応援したくなる、そんな絵にも出会いたい入選された皆さん、さらに受賞された皆さん本当におめでとうございます。
私は、昨年に続き2回目の審査。前回とはまた違う作品が並ぶ一方、見覚えのある作品を見て「おぉこう来たか」と驚いたり、少し残
念に思ったりそれぞれだった。
グランプリの福濱美志保さん。以前に彼女の仕事を見たことがある。自作の小さな白いモチーフは独特のエッジの柔らかさがあり、きっとかなり小さいものなのだろう。それを100号大の画面に引き伸ばし描いた絵の前に立つと、絵の奥までゆっくり吸い込まれるような気持ちになったことを覚えている。果たして30P画面でもその魔法は通用するのだろうか。今回、新しい展開もあり具体的な少女や地面が登場したことで、かすかな感情や湿度の匂いも感じた。その辺の道路にしゃがんで、こんなシーンに出会えたら嬉しいと思った。
準グランプリの城戸悠巳子さん、誰もが見たことのあるような風景に、突如現れた形によって彼女にしか見えない風景が広がっている。タイトルの《ト音記号第4線レ・第5線ソ♭(音)》に繋がるのだろう。最近、諏訪敦さんの個展を拝見し、画面に描かれた炎のような形の正体を知った後なので、城戸さんのこの、可視化された形の正体を知りたくなった。
平野瞳さん、画面に深く広がる世界、とても丁寧な仕事だ。小さなサイズのモノクロの版画が、油画や日本画に引けを取らないほどの存在感がある。
タイトルと絵を見くらべ思わず、「ええっー!」と言ってしまった山本真矢さんの作品。「口煩かった祖父」と言いつつ綿密に描かれた一つ一つの骨が、重暗くない空間に静かに存在している。描くことは無言の会話だ。
先に述べた「こう来たか」と思った作品は青木薫さん、人物の存在感の是非ついて意見を交わしたい。
今回の審査は、グランプリの作品は最初から審査員が満票で、清々しく決まった。その他も、意見が対立することなく順当に決まった。美術雑誌に注目の作家として取り上げられている作品もあり、昨年に増して見ごたえもあった。大学在学中の入選者も5名いることがとても嬉しい。でもそうなると反対に、すごい問題作も見たくなってくる。自分しか推してないけど、なんでこの絵の良さに気づかないの?と必死で応援したくなる絵。そんな絵にも出会いたい。
審査員 選考評
塩谷亮(画家)
意外性のある新鮮な作品に出会うデビュー展の審査担当も2年目となり、出品作の傾向や年齢層などを凡そ把握したうえで、意外性のある新鮮な作品に出会えることを楽しみに臨んだ。今回の応募者数は190名で昨年より23名減ということだが、入選数からすると取り立てて少なくなったとは感じられない。依然として入選率約7倍という新人登竜門としては難関のコンクールと言える。実作を前にしての2次審査は5人の審査員の挙手数で決定していくので、ある一定の造形力と訴求力を伴った総合点の高い作品が残る傾向がある。惜しくも落選した作品の中には、個人的に推奨したい控え目で素朴な良い絵もあったが、入選に至らず残念である。
グランプリ受賞の福濱美志保さんは、ミニチュア家具のある白い空間を描くシリーズですでに頭角を現しているが、今作《Around the Clock》は土や植物など自然物と人形の組み合わせで、瑞々しいコントラストを生み新鮮であった。手法的にはカメラレンズのボケまで描いたフォトリアリズムに準ずるが、調子と色相が絵画的で美しく、上質な詩情を感じさせる。今後もさまざまなモチーフに挑戦し、自身の内的世界を表現してほしい。
準グランプリの原澤亨輔さん《pinkscreen》は、都会の雨の情感をクールな造形感覚で構成した秀作である。手前に水の流れのイメージを大胆に配することで、奥行きのある空間と平面性を両立している。さりげなくちりばめられた色彩も雨の実感を帯びており美しい。同じく準グランプリの城戸悠巳子さん《ト音記号 第4線レ・第5線ソ♭(音)》は、一見すると穏やかで心地よい風景画に見えるが、唐突に色彩のハレーションのようなものが描き込まれ、その不明瞭で危うい感覚は見る人それぞれに違った心象を喚起させる。
奨励賞の青木裕美さん《あなたと過ごした夢のなか》は、安定した造形力で当コンクールの常連となっている。多くの人が見過ごすような自分だけの景色と対峙し、光や気配を紡ぐように描いている。また奨励賞の平野瞳さん《エデン》はオーソドックスな写実だが、光を際立たせる構図と銅版画の黒の深みに惹かれた。
その他受賞に届かなかった作品の中で気になったものを挙げると、青木薫さん《航路》は昨年に続き奄美が舞台だろうか、時代性や状況が判然としない点が面白く、審査員の話題となった。達者なデッサンと筆致も魅力的である。山本真矢さん《口煩かった祖父》もその内容と画題で審査員たちが注目した。あたたかい色彩を用い、絵画ならではのカラッとした表現で肉親との関係を吐露している。
審査員 選考評
岩田壮平(日本画家)
多様性があり緊密な作品が素晴らしい秋が深まりを見せる中、11回目を迎えるデビュー展の二次審査が行われた。先ずは選考の前に全ての力作をじっくりと拝見することから始まり、次に各審査員がディスカッションを交えながら一審二審…と慎重に進められた。今回もやはり多様性があり緊密で各々が素晴らしい…。それを目の当たりにして、これから選考しなければならないことに私は内心怯んでしまった。
グランプリとなった福濱美志保《Around the Clock》は、一日の始まりの朝を真っ白なミニチュア玩具がハハコグサか早春の草上で演じている。天眼鏡で覗いたかの如くミニマムな世界。玩具の白さと軽み、白色味を帯びたグレートーンの全体色、筆致が残るほど硬め多めの絵具の質量と。雄大な景色を題材に余白多く僅かな筆跡で透明に広がる空間を描ききる南宋時代の山水画とは全然違う真反対の手法にも関わらず、そこは似た世界観に遊ぶ様な気がした。
準グランプリの原澤亨輔《pink screen》、城戸悠巳子《ト音記号 第4線レ・第5線ソ♭(音)》。ともに画中には何やら気体の様なモノが描き込まれている。原澤は日本画特有の岩絵具で描かれており、樹木?とも見て取れるのだが、きっとそれではないと思う。街中の何車線もある様な広い横断歩道を、傘を差す女性が1人夜歩く。昼間の雑踏の気配に準えて降る雨足が大きな渦柱の気体となって空に登りまた降り注ぐ。手前の黒い枠の空間を通した原澤の眼差しは、その奥には人肌を帯びた色彩にも関わらず、彼が捉える世間への全く冷ややかな感情が漂う。鑑賞者⇄(作者⇄黒い間⇄ピンクの景色)という、鑑賞者は矢印のような感情の往来により現代人のどこか悟った様な視点を感じるのであろう。
城戸は油画。その風景は身近な草地か平山か、青空のある曖昧に滲む景色の中に虹色に揺らめく空間の歪み。それは、原澤の表現する気体の上昇を伴った感覚ではなく、あたかも未知が宙より舞い降りた軌跡の様に思える。身近な景色は時に造成などでそのかたちを変えまた「国破れて山河あり…」を繰り返す。どこか我々の行末が人間の衰退ではなく、希望を伴った未来への変化でありたいと言う願いをこの風景画へと託しているのではないだろうか。
そして、奨励賞の青木裕美《あなたと過ごした夢のなか》、平野瞳《エデン》へと続くのだが、其々の作品の強度はさることながら、他にも記憶に残る作品が数多くあった。ここに備忘として作家の名前を上げておきたいと思う。手塚葉子、河井眞里枝、工藤彩など…。また中国出身の方々が目覚ましく、何承霖、王甜甜、房艦成、林銘君と、益々その勢いには感嘆する。
今回、私は選考にあたり審査員の先生方とのディスカッションには余り加わらず、傍聞きに納得しながらも輪から一歩下がって、それぞれの作品との対話を楽しみつつ挙手をさせて頂いた。多数決という選考方法では致し方なく選外となった中にも、その対話は感慨深く、絵画による表現の可能性を一層広げつつあることに悦びを憶えた。
美術新人賞デビュー2023
入選作品展
会期 2023年2月27日(月)~3月4日(土)
11:00~18:30 ※最終日は16:00まで
※開廊時間は変更になる場合があります。
〈第1会場〉
泰明画廊
東京都中央区銀座7-3-5 ヒューリックG7ビル1F
グランプリ 福濱美志保
奨励賞 青木裕美
井上咲香/王 甜甜/河井眞里枝
SCHREINER COLE /髙栁基己/津田文香
手塚葉子/中村文俊/野村日向/廣岡元紀
山本真矢/林 銘君
〈第2会場〉
ギャラリー和田
東京都中央区銀座1-8-8 三神ALビル1F
準グランプリ 城戸悠巳子
準グランプリ 原澤亨輔
奨励賞 平野 瞳
青木 薫/何 承霖/簡 維宏
工藤 彩/シバタマミ/杉山花菜
房 鑑成/増田舞子/吉川 薫/余 梦婷