美術新人賞デビュー2021 審査総評&全入選作28作家 一挙紹介!
〈美術新人賞デビュー 2021〉の受賞&入選者が決定!応募総数203名の中から、書類、実作品の審査を経て、受賞7名を含む入選28名が選ばれました。
ここでは、審査員の立島惠、土方明司の2氏によるコメントともに入選作品を一挙に紹介します。
座談会 立島惠×土方明司
──〈美術新人賞デビュー〉も今年で9回を数えました。応募総数も過去2番目に多く203名でした。書類による1次審査を通過したのが78名。そして、実作品による2次審査を経て、入選28作家が決定しました。ここでは、審査員の立島惠、土方明司の2氏に選考を振り返っていただきたいと思います。土方さんは初めての参加でしたが、いかがでしたか。
土方 レベルが高いので正直びっくりしました。一つの傾向に偏らないで色々な作風があって、審査していて楽しかった。まだまだ具象絵画にも色々な多様性があるんだなと実感しました。若い人たちが一所懸命、自分の世界観を絵に託していこうとする真剣な姿勢がみえて、こちらも審査をしていて心地よい緊張感を得ました。
──今回は、今までで一番見応えがあったように感じました。応募数が伸びたのは、コロナ禍の「ステイホーム」の影響があったのでしょうか。
立島 デビュー展の規定サイズである30号は、ちょうど家で描けるサイズ感なんじゃないでしょうか。学生は学校にも行きづらかっただろうし、外出できないこんな状況だから、デビュー展特有のサイズ感が結果的に良かったのかも知れません。
──作品のレベルも高く、入選作品を絞るのが大変でした。1票の差、本当に惜しかったものもたくさんありました。
立島 基本的には多数決なんだけど、審査員みんなで議論する。それがデビュー展の良いところだと思います。甲乙だけではなくちゃんと時間をかけてじっくり話し合って決めている。前回の審査員は4人だったけれど、今回から土方さんに入っていただいて審査の雰囲気が締まったように思います。
土方 本当に?(笑)でも、審査員の方々も納得した顔をしていたのが印象的でした。改めて入選作品を見ると、幅広く選ばれていて、とても充実している。
──入選者の出身校や経歴を見てみても、本当に様々です。美大を卒業している人も多いけれど、いわゆる美術系の学校ではない人も同じくらいいます。
立島 それがデビュー展の特徴ともなっている。審査のときは、作品と、タイトルと素材しか明かされない。良くも悪くも一発勝負だから、いろんな人にチャンスがある。だからこそ、バリエーションに富んでいると思います。
土方 公募展は、だいたい傾向と対策を学習してから応募してくることが多いけれど、デビュー展はそれがまったくなかった。
──その点はデビュー展の美点と言えるでしょうか?
立島 多様性を受け入れられるということは大事ですよね。審査員もフレキシブルに見ていますし。
土方 あと、既視感がないというのが良かった。審査員の皆さんが一番大事にしていることが「新鮮な感覚」でした。今回選ばれた人たちは、技術面もさることながら、ナイーブで新鮮な感覚を自分のなかで表現に高めようとしている姿勢が見られた。「新しいものを見たい」という審査員の気持ちがこの結果に結びついたかなと思います。
◆受賞の鍵は「新鮮な感覚」
──それでは、個々の作品を見ていきましょう。まずはグランプリ。
さくらわださん《今日はよく泳げそうだ》。圧倒的な存在感でした。
土方 イメージのインパクトが絶大で、しかも表現の仕方一つ一つにすごく工夫を感じた。
立島 空間把握も面白いですよね。初発性を大事にしていて、すごく自由に描いている感じ。
土方 具象の中でも、内面的で幻想的。最近だとピーター・ドイグが話題なりましたが、ドイグに共感する感覚が若い人たちにあるんだと思います。
──ドイグを見ていると、「ああ、絵画ってオーソドックスにやっていっていいんだ」と再確認することがあります。今の美術は、語弊があるかも知れませんが、なんでもあり。サブカルチャーに寄っている部分もある。むしろそういう方が影響力も強かったりする。
土方 もう一回絵を描くことの大切さを示して、それに共感した若い世代が育ちつつあるんだなとデビュー展で感じました。
──プールを描いているからではないけれど、ホックニーにも通じるような…。
土方 そうですね。イギリスの現代美術的な。無国籍的な感じで、妙にセクシャリティを感じる作品。
立島 まだまだ若いからこれからどう展開していくのか楽しみですね。来年の個展に期待したいです。グランプリおめでとうございます。
──続いて、準グランプリの2名。木下みやさん《弛む夏》、津田文香さん《フナツキバ》です。
土方 準グランプリの2点は、正統な作品ですよね。技術も高い。
──両者とも過去の入選者でもあります。木下さんは18年入選、津田さんは前回奨励賞でした。
立島 確実にステップアップしていますね。2回目以降の出品者は、自ずとハードルが高くなってしまう。
──同じテイストで来ると新鮮味に欠けてしまうし、これまで以上のものを求められます。
立島 二人はその期待に応えていると思います。木下さんの作品は空気感というか温度感を感じます。
土方 全体的によく整理されていて無駄がないというか。
立島 柔らかい印象も受けるけれど構図も独特で、挑戦的な作品でもあると思いますね。
──一方、津田さんはまっとうな日本画です。
立島 絵肌に緊張感があって、きっちりとした硬質さがあります。前回の作品も良かったけれど、今回は、隅々まで描き込んであって丁寧に仕上げてきた。猫も効果的でした。
──それでは、奨励賞に移ります。今回の奨励賞4名。まずは青木裕美さん《うらら》。
立島 細かいタッチで描いていて、全体的にソフトな印象。光の表現も上手く、心温まる絵だと思います。
──何より、タイトルと作品表現が一致しているのが良いと思います。毎回タイトルが凝っている作品が多く、単純明快であればいいということではありませんが、わかりやすさは大切ですよね。では、気を取り直して、王杰さん《春の息》。キャンバスに岩絵具の作品です。
土方 一見、童画的かな? と思いましたが、絵作りがすごく丁寧。背景の奥の方までよく描けていて、すっと作品の中に入っていける。この作家は、自分の絵の世界をすごく大切にしているんだなと感じました。
──この作品はとても印象深かった。金子貴富さん《色の音階》。
土方 クレヨンに寓意が込められている感じがして、良い作品ですね。何もない空間のなかにポンと置いて、心理的な空間が効果的。伸びて欲しい作家ですね。
──奨励賞最後は、Kitazu&Gomezさん《グローブ》です。写真と見粉うほどの細密な表現でした。
土方 最近、自傷的なモチーフ、作風が多くて、基本的に僕は好きではないんだけど、魚を描くことによって救われているというか…。
立島 中和されていますね。肌が本当にすごくよく描けている。技術は高いし、いろんなことをよく考えて描いていると思います。
土方 すでに発表活動もされていたようですが、名前を聞かなかったのが不思議なくらい。
◆受賞まであと一歩!秀作揃いの入選作品
──受賞作品は以上です。これからは入選に移ります。Atsuko Yamaguchiさん《Forget-me-not》。
土方 とても小さい作品でしたね。最近、刺繍や糸を使う作品が増えていますが、この作品は表現としてうまく成立されていました。
──少し離れて見ると花が浮かび上がって綺麗な作品でしたね。
立島 毎回言うことだけれど、もう少し大きかったらなおよかったと思います。
──イクタケイコさん《憂いに降る蝸牛の唄》。イクタさんは17年に入選しています。
立島 前回の作品とだいぶ雰囲気が変わっていますね。元々日本画っぽいテイストがあったけれど、それがより濃くなった。作品の世界観も面白いですね。
──続いては、王露怡さん《Sun and tree》。実はこの作品は、途中までずっと満票できていて、このままグランプリにいくのかな? と思わせた作品でした。
土方 そうでしたね。良い作品なんだけれど…新鮮味という点で少し弱かった。戦前の作家の初期作品に似通っているかな、と。表現にしても色遣いにしても。
立島 絵は熟れていて、上手いんだけれど。鮮度の部分では、インパクトが足りなかった。
土方 やはり既視感よりもフレッシュな感覚が見たい。デビュー展の作品を見る人もそれを求めていると思います。惜しかったです。
──次は大園亮介さん《水のある風景》。
立島 今回は少数派だった写実系の風景画では目立っていました。
土方 技術的にちょっと未熟なところも見られましたが、ファナティック(狂信的)なくらい、部分の描き込みに執着があって、そこは逆に面白かった。
──鍵本大さん《もう一度やり直したい》。タイトルからも切実さが伝わってくるようです。
土方 痛々しい感じ。最近の特に若い男の子に多い傾向ですね。僕は、もう少し違うことやってほしいなと思うんだけれど。
立島 でも、絵としては上手で、技術は確かにある。
土方 そうですね。この世界観が、閉ざされたものじゃなくて、そこから転化するような、大きく変わらなくとも、「兆し」みたいなものが絵に込められていると説得力が出てくる。痛々しいだけで描いてしまうと自虐的になってしまって閉鎖的な絵になってしまうのは残念なこと。
立島 この入選が次のステップへ繋がればいいですね。何か新しいものを生み出すきっかけになれば。
──次は上木原健二さん《混沌の中を貫いているある種の秩序》。3回目の入選です。
立島 毎回同じようなテイストなんだけれど確実に入選している。
土方 僕は、上質なファンタジーの絵だなと思いましたよ。
立島 不思議なストーリーがあってついつい見入ってしまう。バリエーションは少し変えてきてはいますね。密度が非常に高いのでその分引き込まれるのだと思います。
──続いてはキムミンキョンさん《夜のメリーゴーランド》。
立島 特徴的な絵肌も作っていて、岩絵具の使い方をよく勉強されていると思います。もう少し自分なりの表現方法や特有の何かがでてくるといいと思う。期待したいです。
──高資婷さん《狐娘》はいかがでしょう。
立島 絹本をちゃんと使えていて綺麗で、日本画の技術も長けている。モチーフにも一捻りあったら良かったと思います。
──坂本健一さん《自画像》は色んな要素が融合されているような作品ですね。
土方 新しい感じの自画像ですね。ベーコンを思わせるようでもあるし、力はあると思います。来年もう1回出していただいて是非とも上を狙って欲しいです。
──次は、柴愛実さん《探している(鳥)》。
土方 一見アニメーションっぽいんだけど、オリジナルの世界を持っている。
立島 素材は、イラストレーションボードにアクリルなんだけれど、油絵っぽい絵肌だった。違った画材で描いた作品も見てみたいと思いました。
──続いて、津田光太郎さん《或いは最大の窮地》。ところどころ遊び心もちりばめられた作品です。
立島 面白い作品ですよね。要素を詰め込めるだけ詰め込んでいる。ざわざわしているのも個性でいいと思う。
──土田翔さん《join》も印象的な作品でした。
立島 作品の中心が切り抜かれていて、再度付けられている。意図はよくわからないが、意表を突くような面白い作品でした。
──土田さんは東北芸工大大学院に在学中。雄大な自然が身近で感じられるから作品にも影響を受けているのでしょうか。続いて、ドル萌々子さん《窓辺》。
立島 逆光という光の表現が面白いですね。もっとクリアだったらより良かったかな。日本画は、色を重ねるとどうしても濁りやすいから、そこに気をつけて、もっと透明感を意識して制作して欲しいと思います。視点は面白かった。
──野口俊介さん《始まりの詩》は横長の構図が効果的な作品でした。
土方 光の描き方も効果的で良かったと思います。真ん中のポツンとある植物が象徴的で、これがなかったら全く違う作品になってしまったと思うな。
立島 これがないと普通の風景になってしまうよね。この「ポツン」があることでドラマが生まれ、作品に深みがでますね。
──野田晋央さん《Savanna Tour(Blue)》です。この方も以前入選されたことがあります。
立島 野田さんも以前と同じテイストなんだけれど、なぜか引き込まれる。前回より画面構成が複雑になっている印象。
土方 ポップなルソーという感じがする。ルソーにあるミステリアスな雰囲気はないけれど、目を引くのはわかります。楽しい作品でした。
──武道さん《砂のような現実感》はいかがでしょう。
立島 武道さんも18年に入選していますね。もうちょっと大きい作品だと良いなと思います。
土方 僕もそう思います。シュールで面白かったんだけど、このサイズだとスケッチみたいに見えて、他の作品に負けてしまう。もったいないですね。
立島 作家にとって自分に合うサイズ感なんだろうけれど、もうちょっと冒険して大きな画面に挑戦してみるのも良いと思います。
──宮﨑和彦さん《The end of each》も印象深い作品でしたが、描き込みが足りなかったのでしょうか。
立島 ちょっと鳩の形が不自然なのかな? 何かを意図してこの形なのかも知れないけれど。違和感を覚えるよね。
土方 もう少し描き込むと絵に力が出てくると思う。背景と主題の鳩を同じような力加減で描かれていたからインパクトが足りなかったかもしれない。
立島 背景は良かった。その分、主題が逆に弱く見えてしまったのかもしれませんね。
──森なぎささんの《Day dream》は楽しい作品でした。
土方 コラージュみたいな絵で面白かった。いわゆるアカデミックな美術教育ではなく、良い意味でのイラストっぽい感覚が絵に活きていると思います。型に捉われない自由な発想が良かった。
──続いて森川渉さん《指標》。
土方 典型的な表情や人物描写が気になるけれど、服の装飾的なパターンや背景のマチエールが丁寧に描き込まれていて好感が持てました。
立島 背景は、銅の箔を腐食させて緑青をつくっているのかな? 独特な素材の表現が面白い作品ですね。
──森田悠介さん《ラストレター》は、今回の入選では数少ない女性像です。
立島 人物の雰囲気があると思います。古紙を用いて素材を生かした技法で凝っている。もう少しデッサンに力を入れて技術的な面を磨いていけば、もっと上にいけるんじゃないかなと思います。
──いよいよ最後となりました。横尾萌さん《山の麓の木と小樽の空》は素朴でとても良い作品ですね。
土方 この作品は、嫌な感じがまったくしない。気持ちのいい作品で、良心を感じますね。
立島 雑念がないですね。本当にストレートに描いている。それってすごい大切なことですよね。
──けれども、なかなかできることではないですよね。
立島 そう、意外とできない。
土方 作為が目立つものが多いですからね。でも横尾さんは、楽しく描いているということがまっすぐ伝わる気持ちのいい絵でした。
──早足で入選28点を振り返りましたが、個々の作品どれも個性的でやはり見応えがあります。是非展覧会にもお越しください。本日はありがとうございました。
諏訪 敦(画家)
審査することの難しさを痛感
グランプリ受賞者のさくらわださんは東京造形大学に在学中。これからあちこちの若手発掘系コンペや企画展で、その名を目にするのかもしれない。
受賞作《今日はよく泳げそうだ》は、描き始めのキャンバスやドローイングが持つ、濁りのない清冽さを保ったまま、絵画としてひときわ充実した印象を与えて支持を集めた。人物や植栽といった具体的な事物を描きながら、そこに主従関係は無く謎めいており、何に言及しているのかについてさえも、敢えて保留状態にとどめているが、これは現在の画学生に多く見られる傾向であるように感じた。
準グランプリ2名について。《フナツキバ》の津田文香さんは、2020年の奨励賞からのステップアップとなった。前作に見られた拙さが抜け、洗練を見せつつ、抑制の効いた抒情は保たれていた。日本画はときに旅情に大きすぎるスケールを求める結果、観光ハガキ的になるものだが、彼女は華やかさのない身近な風景の中にも、詩的なものを見出す才能があるのだろう。一方《弛む夏》で図案的な絵画空間に、緻密な描写を重層的に導入しレイヤー構造を演出した、木下みやさんもまた、このコンクールへの再挑戦者であり、一瞬審査の場が和んだ。それぞれ尽きない情熱が報われたかたちであり、当コンクールにとって継続性が重要であることを、私たちに示してくれた。
審査員の任期は3年だから、私はこれで一応の役割を果たしたことになる。2年目に日本はコロナ禍に見舞われ、将来はきっと思い起こされる時期に関わったのだけど、残念なことに受賞~入選者たちとの祝賀会さえもままならず、若手支援を押し出したこのコンクールの趣旨に少しでも貢献できたのか、正直なところ実感が持てないままだ。
しかし、昨年あたりから過去の応募者達の展覧会や活動を、街の画廊やネット空間で、ぽつぽつと目にするようになった。こういう再会は理屈抜きに楽しいものだが、ときに審査の場面では力不足に思えた応募者について、まったく違う印象を抱くことがあった。つまり、審査の時に推し測った力量よりも、実は良いアーティストだったと感じたわけだ。こんなとき、嬉しい誤算に笑が浮かぶとともに、選び、審査することの難しさを痛感した。
特に、このコンクールの審査過程で、私たち審査員に開示されるのは、タイトルと画材だけで、たとえ名前を尋ねても教えてはもらえない。これは縁故によって審査に影響が出てはいけないという配慮であり、公正さを担保しようという主催者の清潔さの表れなのだろう。しかし、端的にいうと1点勝負だから、キャリアの無い人にも勝てるチャンスはある反面、審査する側にとっては、その人のポテンシャルを総合的に見通すことが難しくなるわけだ。
これは目の前にある「作品」だけに対して評価を与えるのか、あるいは応募者「その人」に対して期待を寄せるのか、という意識の違いだ。どちらも一長一短あるのはいうまでもないが、このコンクールが標榜する「継続的な支援」の実現性を考えるとき、議論の余地があるように思う。
奥村美佳(日本画家)
制約があるからこそ、表現を深めるチャンス
コロナ禍にもかかわらず出品者数が増し、審査会場に並んだ作品も質の高いものだった。今回も純然たる写実作品から抽象的な作品、工芸的な仕事が主となる作品まで、その表現の幅広さが顕著な一方、完成度の高い作品が多く、優劣をつけることが困難とも思われたが、比較的スムーズに結果がまとまった。
グランプリは、さくらわださんの《今日はよく泳げそうだ》。伸びやかな筆致と明るく鮮やかな色彩が目を引く作品。画面からは屈託のない印象を受けると同時に、どこか諧謔味のある独特の世界観に引き込まれる。
準グランプリの木下みやさんの《弛む夏》、独特の繊細な色彩が端正に整えられた構成を柔らかく彩っている。絵の奥から優しく滲むような光の表現が魅力である。
津田文香さんは前回、《ウミベノエキ》で奨励賞を受賞した作家だが、今回《フナツキバ》で着実な深化をみせてくれた。本作は抑えた色調で港の片隅を情感豊かに描き上げている。ここでいつまでも佇んでいたいと思わせ、観る者の心に染み入る絵の引力を存分に感じさせてくれる優れた作品である。
奨励賞の青木裕美さん《うらら》は、日常の何気ない場所に漂う季節や時間の移ろいを繊細に捉え、安定した構成と豊かな色感で丁寧に描いた力作。早春のまだ冷たい空気と、のどかさを日本画材特有の質感を大切に、より素朴な表現で貫いた王杰さんの《春の息》、潔い余白の空間と写実的な描写が画面に抑制の効いたリズムを生み出した金子貴富さんの《色の音階》。そして、インパクトある対象に胸騒ぎを覚えるKitazu&Gomezさんの《グローブ》は、視覚的な質感の表現を超えて対象の感覚にまで迫ろうとする写実に新しい可能性を感じる。
各入選作にも心惹かれる魅力があり、中でも調和のとれた色彩と胸のすくような空間表現が印象的な野口俊介さん《始まりの詩》に注目した。惜しくも落選となった中にも良質で可能性を感じる作品が少なからず見受けられた。
今回の審査で、不安や不自由の絶えない状況下にあっても、作家の表現への情熱は冷めないと実感した。むしろ制約があるからこそ、表現への思いは純化されるのではないかとも思う。そういう意味でこの時代は描き手にとって自身の表現を深めるチャンスと捉えられるのではないか。
3年にわたる審査を通して絵画の持つ純粋な力に改めて気付かされた思いである。感謝と共に本展覧会が若い作家の応援団であり続けることを切に願う。
瀧下和之(画家)
真摯な制作を続けて欲しい
今回の審査も例年同様に楽しい時間になりました。審査員を任されたこの3年間は、あえて画廊巡りを控え、毎回の審査会場で新鮮な気持ちでのぞめるよう務めました。その甲斐もあってか、今回も素敵な多くの作品達に出会うことができました。
その中から、グランプリを獲得したさくらわださん、準グランプリの木下みやさん、津田文香さん、入選の柴愛実さんの作品に触れたいと思います。
さくらわださんの作品《今日はよく泳げそうだ》。はじめて観たとき、リアルなキューピー達にまず目を奪われてしまいましたが、よくよく画面全体を見ると、“筆使い”が秀逸で、特に水面の表現に関しては使われてる色も含め大きな魅力を感じました。まだ若いのでこれから色んな事を学んでいくと思いますが、“直感”“感性”を最優先に信じて制作活動に励んでください。グランプリおめでとう。
木下みやさんの作品《弛む夏》。画面全体から感じ取れる配色や構図で勝負した作品。一見すると寂しい構図で物足りなさを感じてしまいそうになりましたが、暖色系メインで描かれたこの作品は、それを全く感じさせず、暖かみのあるイイ作品だと思いました。今後も構図に配慮してイイ作品を作り続けてください。
津田文香さんの作品《フナツキバ》。津田さんは昨年も入賞されてましたが、その時の作品よりも格段に好きでした。画面左下にさりげなく存在する小さな一匹のネコ。この存在が大きいです。観る側に物語を想像させてくれています。それと画面の隅々まで気を抜くことなく、丁寧な仕事がされていてすごく好感が持てました。これからも続けて欲しいと思います。
柴愛実さんの作品《探している(鳥)》。優しい色使いの作品。描かれている少女の物憂げな表情とは裏腹にシュールなテーマ性も垣間見えますが、その世界観は続ければ続けるほど磨かれ、イイ作品を生み出し続けることができると信じています。これからも頑張ってください。
最後に、先輩作家として毎回伝えていることですが、今回入賞・入選された方々は、次回のデビュー展までの1年間をどう過ごすかが大事です。自身の「出す」「出さない」は別として次が開催されれば世間の目はもうそちらに向きます。充実した1年になるよう真摯な制作を続けて欲しいです。
美術新人賞デビュー2021 入選作品展
会期 2021年3月1日(月)~6日(土)
11:30~17:30 ※最終日は16:00まで
〈第1会場〉
泰明画廊 東京都中央区銀座7-3-5 ヒューリックG7ビル1F
グランプリ さくらわだ
奨励賞 青木裕美
奨励賞 Kitazu&Gomez
イクタケイコ 王 露怡 大園亮介 鍵本 大 津田光太郎 土田 翔
野口俊介 野田晋央 宮﨑和彦 森川 渉 横尾 萌
〈第2会場〉
ギャラリー和田 東京都中央区銀座1-8-8 三神ALビル1F
準グランプリ 木下みや
準グランプリ 津田文香
奨励賞 王 杰
奨励賞 金子貴富
Atsuko Yamaguchi 上木原健二 キムミンキョン 高 資婷 坂本健一
柴 愛実 ドル萌々子 武 道 森なぎさ 森田悠介